2017年4月28日金曜日

病理の話(74) 医学生が考えておくとよいキャリアパスの話

研修医や医学生に、将来病理医になりたいのだが、どういうところで初期研修をすればよいだろうか、と尋ねられることは多い。

もっと言えば、病理医に限らず、将来「○○科」に進みたい、どこで初期研修をすればよいか、と尋ねられることの方が圧倒的に多い。まあそれはそうだ。病理医なんてのは医者の0.6%くらいしかいないそうだから。

さらに言うと、「将来何科に進みたいかはちっともわからないが、どこで初期研修をすればよいだろう」と尋ねられることが一番多い。

夢なんてこんなもんだ。自分で自分の夢を決定づけてしまうことに臆病な……というか、よくわからない人というのが一番多いのである。



さて、そういうときに、なんと答えるか。カウンセラーでもなければ研修教育を統括する厚生労働省の人間でもないぼくが、自信をもってお答えできることがどれだけあるか。

正直、そんなにないので、最近はこのように答えている。



(1)将来、明確に進みたい科がある場合には(例えばそれをA科とします)、あなたはおそらく、A科にいい思い出があるか、A科が具体的にイメージできているのではないかと思います。では、A科で有名な医者や、A科でこの人の元で働きたいと思えるボス、A科の後期研修で有名な病院がありますか?

もし、10年後の将来がなんとなく見えているなら、10年後にここで働きたいという場所の候補がいくつかあるならば、そこから逆算をしてください。

10年後にいたい病院を調べて、その病院にいるスタッフが、どこで後期研修をしたのかを探ります。次に、そこの後期研修医がどこで初期研修をしたのかを探ります。

目標から遡るわけです。そうすれば、自然と初期研修先が見えてくる。



(2)将来、まだどこに行きたいかわからない場合、なんとなくの方向性は見え始めている、あるいは方向性すら見えていないという場合には、なるべく多くの医者がいて、なるべく多くのコネが作れそうな、比較的大きめの病院で初期研修をするのがいいです。

あなたは、今までの自分の経験で将来を決められていない。ならば、そこに経験を上乗せするしかないのですが、選択肢が見えていない状態では、できるだけ多くの選択肢を見る、あるいは見たつもりになったほうが、後悔しないでしょう。

ベッド数と医者の数、専門医の数などを参考にしつつ、できれば、そこで初期研修した人達が、将来どこに進んだか、まできちんと調べる。初期研修を終わった人達の選んだ進路の、バリエーションが多ければ多いほど、あなたの将来選ぶ選択肢が増えると思って頂きたい。



(3)でも、大きい病院ならいいってもんじゃない、肝心なのは自分が生涯尊敬できるボスと出会えるかどうかだ、だから小さい病院もみておいた方がいいんじゃないか……それもまた一面の真実なのですが、ぶっちゃけ、小さい病院で研修をして大きくなれるのは、「小さい病院を積極的に選ぶだけの見通しが現段階で立っている人」がメインです。「大きい病院と小さい病院、どちらがいいかわからない」くらいの人は、選択肢を残したがるタイプなのですから、最初から大きい病院に行った方がいろいろ安全です。

私のこの言葉で、「大きい病院は何か違うな」と明確にひっかかりを持った人だけが、小さい病院を選んでも後悔しないのだと思いますよ。




病理の話とはちょっと違うけど、自分が選んだ道に責任を持って欲しい、誇りを持って欲しいと思いながら「病理医のキャリアパス」の話をしつづけていると、自然と話は、「病理以外」に向いていく。

そして、「病理以外」を選んだ人とばかり、一緒に働き続けていくのが、この仕事なのである。