風がものすごく強いんだけどこの「ビュゴォー」という音はなぜ鳴っているのだろうかと考える。
たぶん、建物のすきまとか、木々とか、そういったものに空気があたって音が鳴ってるんだろうな。
じゃあ空気がそういうのに当たるとなんで音が鳴るんだろう。
大きい壁にただ当たるだけでは音は鳴らないで、細いものとか細かいものに当たるとヒュオッって鳴るのはなぜだろう。
口笛のときに口をすぼめると音がなるけど、口を開けると同じ風量でも音が鳴らないのはなぜだろう。
うまく吹けないときと、きちんと音が鳴ったときの「中間」がないように感じるのはなぜだろう。
外の風の音を聞きながら、ひとつひとつ、自分の物理学の知識で回答を与えていく。
音は空気の振動だから……。共振が……。狭いところだと……。
途中までは回答できるが、最後の、「なぜ細いところを通る必要があるのか」については、高校までの物理の知識がうろ覚えになりつつある今は、即答できなかった。
たぶん、ググれば、どこかに書いてある。
ふと。
「風の音」すら記述できないんだな、ぼくの常識は……。
そういう気分になった。
難しいことは知らないままでも、人生は楽しくやっていける。
ほんとうだろうか?
学校の勉強よりも大切なことが世の中にはいっぱいある。
ほんとうだろうか?
学校の勉強くらい綿密に学び続けてよいのなら、ぼくはあるいは「学び続ける人生」を選んだかもしれない。
何かを知らないまま笑い続けることができない人もいるのだ、ということを、小声でささやいておく。風の音に吹き消される。