「グラム染色道場」という本を買って読んだのだがとてもおもしろかった。
( https://www.amazon.co.jp/dp/4784948104/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_TuKsCbVAM4755 )
著者の山本剛さんは細菌検査の達人で、一度講演を聴いたが切れ味がとんでもないことになっていて、尊敬してやまない。
同名のブログもある。http://gram-stain-id.cocolog-nifty.com/
一般人が読んでもなんのこっちゃ全くワカラナイと思う。申し訳ない。ぼくも半分くらいしかわからない。それほど感染症、細菌検査の世界は奥深い。
難しいけれどもこの内容は多くの医師に知っていてほしい。臨床検査技師にとっても、陳腐な言葉で恐縮だが「必読」と思う。
ぼくはこのグラム染色道場と、もうひとつ、「栃木県の総合内科医のブログ」 http://tyabu7973.hatenablog.com/ を、ときおり研修医に紹介している。どちらもレベルが高いが定期的にチェックすると楽しい。
ただ、今日の話、本題はここではない。
「読んだらいいと思うよ」というホームページとか雑誌なんてのは、今の時代、ほんとに無数にある。無限と言っていいだろう。
かつてぼくがまだ学生だったころ、
「NEJM(超有名医学雑誌)のケーススタディを読んでない医学生はモグリ」
と言われたことがあり、あわてて読み始めた。当時すでにケーススタディはケースレポートの形に変更になっていたので、教えてくれた人が言うのとは少しニュアンスの違う記事になっていたが、確かにとても勉強にはなった。
ただ、現代において、かつてのように、誰かからおすすめされたブログとか書籍を全部読むというのは無理だ。
「最低限これだけは……」という、質が高く読みやすく手に入りやすいリソースが、とんでもない数ある。「最低限。最低限」と言いながら、ほとんど人体の限界に挑むような量の雑誌や書籍、ブログを読まなければいけない。ドコが「最低限」やねん、とツッコむことになる。
タイムラインに流れるすべてのおすすめブログを片っ端から読んでいると、それだけで一日が終わる。
今の時代は、”師匠”が多すぎる。
これについては何度か書いているかもしれないけれど、たとえていうならば、J-popが多様化してミリオンヒットがなくなったのと、現象としては似ている。
20年前にはミスチルやビーズ、サザンを知らない人はほとんどいなかった。ぼくはバンドミュージックが好きだったがどちらかというとマイナーレーベルとかインディーズの少しオルタナ方面の曲が好きだったから、あまり積極的に売れ筋の曲を聴いてはいなかったと思うけれど、それでもGLOBEだってELTだって浜崎あゆみだって一通りの曲を覚えている。
かつてはそれくらい「多様性がなかった」。
けど今はどうだ。
米津玄師がバカ売れしてるって言っても、一曲も知らない人はそんじょそこらにいるだろう。
欅坂の曲をクラスのみんなが口ずさめるかどうか。
世界の人々と容易につながれるようになり、自分の手の届く範囲がとても広くなった結果、「誰もがアクセスしやすい情報」の意味がかわった。
それまでは、「テレビで盛んにやっている曲」だけが、みんな簡単に手にできる情報だったのだけれど、今は、テレビやラジオでまったく取り上げていなくても、スマホとSNSだけでどんな情報へもアクセスできる。
メジャーもマイナーも関係なく「誰もがアクセスできる」ようになった。
その結果、ミリオン級ヒット曲というのがなくなってしまった。
実は医学知識を集める場合もまったく同じ事が言える。
非常に専門性の高い高度の知識を集めようと思うと、そもそも発信できる人が限られているので、昔も今も一流の医学雑誌や優れた教科書、コクラン・ライブラリー級のメタアナリシス型サイトを読む以外の方法はあまりない。
でも、初級から中級……医学生や初期研修医、後期研修医あたりが、基礎的で汎用的な情報を学ぼうと思うと、かつてよりも参照できるブログやネット記事の数が圧倒的に多いので、昔よりも勉強の仕方がずっと多様だ。
だから、ネットで「おすすめです」と言われているものを逐一チェックしていくと、自分の処理能力を確実に超えてしまう。
先輩医療者がおすすめする本やネット情報は、たいてい、おすすめされているだけあって、本当に「いい」。
でも「いい」ものが多すぎるから結局全部中途半端になってしまって、めんどくさくなる。
このような内容の相談をされたことがある。
「今って、読まなきゃいけないってされる本が多すぎませんか?」
「この著者を知らなきゃモグリとか言われたんですけど、ほんとうですか?」
「最低限これだけはやれってのが人それぞれ違うんですけど、どうしたらいいですか?」
ぼくはこれにこう答えるようにしている。
「もうしょうがないから、とりあえず、基準を決めるといいよ。ある本とかブログとかを誰かにすすめられたら、ぼくの場合は、その『すすめてくれた人』の人柄で決めてる。その人がいい人なら読んでみる。その人が尊敬できるキャリアを持っているとか、生き様に対して賛成できる人だとか、まあなんか自分とは合いそうだなって場合には、おすすめしてくれた本やブログも読むとたいてい当たる」
というわけで冒頭のグラム染色道場などは「ぼくのおすすめ」ですので、ぼくの読んでいる本とか言っていることに多少なりとも親和性がありそうな人にはおすすめです。
病理の話じゃないように思えるでしょう。
でもこれ病理の話なんだよ。ほんとに。病理ってのは本と戦う部門なので。「ぼくの場合」。