2019年2月19日火曜日

病理の話(295) 実録看護学校講義風景

こんにちは。

今年の学生さんも元気ですね。

毎年、この看護学校で講義をしていますが、ぼくが担当する学生さんたちはとてもお元気です。

ものしずかな人も、座っている姿勢がいいですね。声を発せずとも、何というか、「この業界で勉強してみっかな」みたいな、決意のようなものが感じられます。

こちら側、教壇の側に立っていて、気持ちがひきしまります。



さて、ぼくが皆さんにお伝えするのは「病理学」の講義です。

ちょっと講義時間が変則的ですみません。

時間割をみて驚かれた方もいるでしょう。

月に1度しかやりません。そのかわり、1度に「2コマ」やります。

3時間目と4時間目、ぶっ続けで「病理学」。

月に1回、合計3時間も「病理学」。

これをなんと7か月も続けます。

途中、夏休みも挟みますので。全部の講義が終わるのは秋です。

春から秋まで、毎月1度だけ、このメガネのおじさんがやってきて、3時間も「病理学」の話をします。




これはけっこう大変だと思うのです。

1コマ、1時間半の講義ですら、途中で眠くなるでしょう。

それを、2コマも。

同じおじさんが、ぶっ続けで。

ちょっと厳しい。

キツいですね。

ですから、1コマを半分にわけることにします。だいたい40分ごとに休憩を入れましょう。

講義時間90分すべてを使う気は無いです。そうすれば多少はガマンできるでしょう。




毎月1回しかやらない授業です。

すると、前回やった内容なんて、誰も覚えていられません。忘れてしまいます。

ですから、ぼくの病理学は、毎月、「読み切りマンガ」みたいな感じでやります。

基本的に、前の月にやった内容は忘れて頂いて結構です。




というか、そもそも、この講義でやる内容は、覚えなくても大丈夫です。

実は、「病理学」というのは、看護師の国家試験にはほぼ出てきません。

また、看護師になってから、病理学の教科書を読み直す機会もまずないです。

きれいごとを言うと、「病理の教科書を読み返してもいい」のですが……。

現場で働いている看護師さんの中で、「病理学」を日々意識している人なんて、まずいません。そのことはよくわかっています。

だったらきれいごとはやめましょう。

病理学は、看護師になったあなた方は、「思い出さない」学問です。

はっきりそう申し上げます。

ですから、肩の力を抜いて、講義を聴いてください。



「そもそも話を聴かなくてもいいのでは」と思った方もいるでしょう。

それもそうです。

でも、みなさんは、「これは聴いておかないとまずいぞ」という、ケアの総論だとか、処置の仕方だとか、内科学とか、生化学の講義であっても、たまに居眠りをするでしょう。

「聴くべきだ」とか、「聴かなくていい」みたいな概念は、勉強においては、あまり意味をなしません。

どちらかというと、あなたが「聴きたい」かどうかが問題なのです。





国家試験にも出ない。現場でも役に立たない。

講師がたまにしか来ない。休憩ばかり挟む。

覚えなくてもいいという。

そんな、病理学を、みなさんは何のために学ぶのか。




病理学とは「やまいのことわり」と書きます。つまり病理学ってのは、やまいを学ぶのだろうな、ということはおわかりでしょう。

皆さんは、これから看護師になるまでの間、多くの「やまい」を勉強します。実は病理学だけではなくて、多くの授業で、切り口を変えながら、何度も何度も勉強します。



「やまい」の勉強というのはですね……。

例えるならば、動物の名前を一つずつ覚えていくようなものです。



ゾウ……大きい……鼻が長い……やさしそう。

キリン……背が高い……首が長い……やさしそう。

トラ……黄色い……ええと、怖そう。

シマウマ……しましま……やさしそう。




まあこんなことを、みなさんは、病気だとか、治療だとか、ケアというジャンルで、いっぱい覚えていきます。

喘息……発作……wheeze……ステロイド吸入の指導方法……。

長期臥床……褥瘡……体位交換……ポータブル超音波検査……。

がん……浸潤……転移……早期緩和ケア……病診連携……ソーシャルワーカー……高額医療費補助制度……。

いっぱいあります。ほんとにいっぱい。

はっきり言います。

無理です。

全部なんてとても覚えられません。

ぼくは今、「先生」として皆さんの前に立っていますが、偉そうにしていても、結局のところ、「やまい」については全く暗記できていません。というかこんなの覚えきれないです。皆さんよりちょっと先に生まれて、ちょっと先に生きてみて、いろいろ試したぼくが言うんです。本当です。

でも、皆さんはそれを勉強して国家試験を受けて、将来、看護師として知識を使わなければいけない。

どうしたらいいだろう?




ぼくは小さい頃、「トミカ」をみれば、車の名前を全部当てられたそうです。小さい子どもは、たまにそういうことをします。人間、ごく小さいときには、自分の興味あるものだけは、なんかいろいろ、覚えることができる場合があります。

けれども、今、「トミカ」を見ても、あーSUVだなあーとか、これはスポーツカーかな、くらいしか、わかりません。完璧に忘れてしまいました。

大人は覚えられません。

それはもう圧倒的に忘れていく。

というか、忘れる以前に、頭に入らない。




じゃあ、そんなぼくやあなた方……大人……が、これからどうやって、莫大な量の知識を頭に入れていくかというと……。

「コツ」があるのです。





動物全部を個別に覚えるのではなくて、

・草食動物

・肉食動物

・大きな動物

・小さな動物

・こわそうな動物

・やさしそうな動物

みたいに、分類の仕方を覚えておきます。とっかかりを増やすんです。

車であれば、SUVと、スポーツカーと、セダンと、工事用車両と、緊急車両と……みたいに、特徴に応じて分けておけば、とりあえず、ぱっと見た車の「おおまかな種類」を言い当てることができます。

それで十分です。

細かな車の名前なんてのは、今の時代、検索すれば十分。




病理学というのは、膨大な数ある「やまい」を、ぼくらがどのように「分類」したり、「まとめて扱っ」たりするかを考える学問です。

病理学を学ぶと、その後の「やまい」のお勉強が、ぐっとラクになります。

国家試験を受ける頃には、みなさんは、「病理学という前提を使って覚えた、具体的な知識」が、頭の中にたくさん入っています。

ですから、国家試験に病理の話はほとんど出てきませんが、病理学は皆さんの脳をそっとサポートする存在として、遠い空の向こうから、敬礼をして、あなた方を優しく見守っているのです。無茶しやがって……。





ということで、病理学の講義は、基本的に、暗記をしなくていいです。

どちらかというと、考え方を学んでいただきたい。

もちろん、テストも、暗記が必要ない形式にします。具体的に言いますと、事前に調べて、資料を持ち込んでよいテストにするのです。

だからみなさんは、存分に、「緩んで」ください。

できれば、楽しんで。

先ほど、トミカの話のときに、「人間、ごく小さいときには、自分の興味あるものだけは、なんかいろいろ、覚えることができる場合があります。」と言いました。

だったら皆さんには、「病理学」に興味を持ってもらえばいいかな、と思います。まあ皆さんは「ごく小さいとき」ではないので、そううまくはいかないかもしれませんが。





では、初回の病理学講義を始めます。ノートを用意していた方、ごめんなさい。ノートは取らなくていいです。取って欲しいときには、こちらから言います。

それでも取りたい人は、どうぞ。それがあなたの「調整方法」ならば、存分にやってください。今のは、ジャイアントキリングというマンガからパクったセリフです。




初回の講義テーマですが、実はまだ決めていません。

毎年、話すことを変えているのです。春から秋のどこかでは必ず話す話題ですが、順番はその年ごとに、てきとうに決めています。

今年も、てきとうに決めます……。そうですね、いつものように、皆さんに手を上げてもらって、決めましょう。次の中から選んでください。それぞれ、感染症の病理、循環器の病理、がんの病理を考える上で、キーとなるエピソードを含んでいます。

テーマは次の3つです。(ホワイトボードに書く)



 1.ぼくが性病になったときの話

 2.マンガ「はたらく細胞」の舞台になっている「町」を真剣に考える話

 3.聖闘士星矢の話



では手を上げてください。まず、「1.」

あー、そうだろうね。わかるわー。

でははじめましょう。あっ、もう、30分も経ってしまった。あと10分で休憩に入ります。