2019年6月26日水曜日

病理の話(337) 免疫組織化学マニアックス

ピンホールメガネ的な原理で、むかしの人は細胞をみる手段を手に入れた。

おっおっ拡大したらなんか見えたぜ、からよくぞここまで発展してきたなあーと思う。

たいしたもんだよね人の脳。

ただ、細胞を拡大すればするほど、中身が気になり始めた。

極端なことをいうと、どこまで拡大しても細胞の「中」に何があるかがよくわからなかったのだ。

ミジンコとかミドリムシみたいに、拡大することで中がすけてみえる程度のものでガマンしてればまだよかったんだけど。

ぼくら、もっと、ほんとに細かいとこまで見えたら楽しいんじゃないの、みたいなことを考えちゃったんだね。

考えたから工夫した。

細胞が見やすくなるように色つけてみるべや。

一色じゃなくて二色で染め分けてみるべや。

ケミカルな物質をいろいろ探っていくと、植物由来のオーガニックな色素が、たまたま細胞の核とよばれる部分をめちゃくちゃそこだけきれいに染めることがわかった。もう小躍りした。

小躍りしてなんかいろいろ細胞のことがわかって、これで科学はめっちゃ発展するだろうって思った……。




ところが、細胞を拡大してよろこんでいた人とは別に、細胞をとかしてよろこんでいた人もいたんですよ。

拡大すると構造がみえるじゃん。

とかすと成分が分離してきたんだよ。

最初はほら、水とアブラがわかれたんだ。細胞をいっぱいすりつぶしたものをごっちゃにまぜて、なんか分離作業とかしてたら、水っぽい部分とアブラとがわかれてきた。

おー細胞ってひとつふたつの成分でできてるわけじゃないみたいだぞ、となった。

でここからが人類のえらいところでね。

水とアブラだけじゃなくて、もっと細かく、いろいろわけたの。

主に物質の重さとか比重とか電荷とかが違うってことを利用してね。

成分をどんどん抽出したんだね。人間って抽出するの大好き。すぐエキスとっちゃう。エキスってエキストラクトって意味だからほんとはすりつぶしたってだけの意味なんだろうけど。すりつぶしたらそこから「有効成分」みたいなのを探して通販に出すの大好きだから。ついめちゃくちゃ細かくわけちゃった。

そしたら、細胞の中には、無数のタンパク質があるってことが明らかになった。

水とアブラだけじゃなくてね、タンパク質、ほかもろもろがあることがわかったんだな。

しかもタンパク質を種類ごとにわけることもできたんだな。




あのねえ細胞を顕微鏡でいっくら拡大しても、タンパク質そのものなんて見ることはできないのよ。

ラーメンが目の前にあって、それを顕微鏡で拡大してさ、うまみ成分が見えてくると思う? 煮干しから出てきたダシの部分と、豚骨からしみ出たコクの部分と、そんなものいっぱいごっちゃごちゃに混じり合ってるから、いっくら顕微鏡でみたって、そのままみたんじゃ絶対にみえてこないわけ。

でも成分を抽出すると出てきたんだよ。成分がさ。ていうかいろんなタンパク質がさ。




そこでね、「顕微鏡班」と、「すりつぶし班」がね、それぞれ好き勝手に、別個の研究してたってぜんぜんおかしくなかったと思うんだけれど……。

彼らは、あれだね。

貪欲だったんだよね。

バラエティ班はバラエティだけ、報道班は報道だけやっててもよかったのにさ。

つい、夕方の大型情報番組、みたいにして、バラエティ的な切り口も、報道的な切り口も、両方やっちゃおう、夕方ビッグバン!みたいなことをはじめたんだよ。




何をしたかっていうとね。




細胞に溶け込んでいるタンパク質、そのままだと、ちいさいし、紛れ込んでるし、わけわかんないから、そこにタグをつけてみた。

タグ。

光るタグ。

ある細胞だけを認識して、くっついて、光るものを用意して、細胞の中にほうりこむわけ。

すると細胞の中でもそのタンパクがあるところだけが強調してビカッと光ってくる。

Google mapでね、札幌 スープカレー とかで検索するとさ、地図の中に、スープカレー屋さんのところだけ、ピンがささるじゃない。ああいうかんじよ。

で、興味のあるタンパク質のところだけを光らせた状態で、顕微鏡をみるんだ。





するとそのタンパクが細胞の中にある状態で、タンパクが光っていることをみることが可能になるんだよ。まあー、これはこれは。すりつぶさなくてもいいじゃない。ていうか、すりつぶすよりももっと、細胞のどこに何があるかがわかって便利じゃない。

まあいっぺんに複数のタンパク質を観察するとわけわかんなくなるんだけどな。札幌 スープカレー ラーメン ジンギスカン で検索したらGoogle mapもぐっちゃぐちゃになるべさ。それと一緒だ。





で、まあ、この、特定のタンパク質を光らせて顕微鏡でみる、みたいな作業を、昔はすごく金かけて、特殊な輝かせ方をさせて、必死でやってたから大変だったんだけど、今はさらに方法が洗練されてね、今では光るっていうか、茶色だったり赤だったり残念な色になったからあんまりおしゃれじゃなくなったんだけどもさ。

そうやって顕微鏡でタンパク質のことを直接みにいく手法のことを、免疫組織化学っていいます。以上おしまい。解散。ラーメン食って帰れ。