2021年11月16日火曜日

病理の話(597) 病理医になる方法

1.まず大学の医学部に行きます。全国どこでもいいです。病理医になれない大学というのはありません。ただし、なかには医学部がさらに「医学部医学科」と「医学部看護学科」などに分かれている場合があります。「医学部医学科」を出ないと病理医にはなれません。

(※例外:歯学部を出ると口腔病理医になれる。獣医学部などを出ると獣医病理医になれる。けどその話は今日はしません)


2.医学部に入ったらほかの学生と同じように勉強します。6年間あります。卒業時に国家試験を受けて合格しましょう。医師免許が手に入ります。


3.医師免許を手に入れたら初期研修(2年間)をはじめます。内科、外科、麻酔科、救急診療、産婦人科、地域医療、精神科、小児科など、ひととおりの科を巡って病院とはこういうところなのだ、医者とはこうして働くのだということを頭に刻みつけてください。


4.初期研修の最中に、先輩病理医たちを探しましょう。大学にいるかもしれません。ふつうの市中病院にいるかもしれません。いないところでは教わることができません。教わらなければ病理医にはなれません。じつは、病理医は独学では絶対にたどり着けない資格なのです。なぜなら、病理専門医になるためには「解剖経験」が必要で、解剖は本で読んでもできるようにはならないし、そもそも死体解剖資格という国家資格を持っている人がついていないと執刀できないからです。だから病理医の先輩がいないとそれ以上先に進めません。


5.病理医がいるのは大きな病院が多いです。目安として200床くらいの規模から病理医が常勤している可能性が増します。300床を超えたらたいていはいます。500床を超えて病理医がいなければその病院は精神科や循環器科がメインのやや特殊な病院なのでしょう。初期研修を大きな病院でやる必要はないですが、その後のことを考えると、さいしょから大きめの病院で研修しておいたほうが、病理医を探しやすいかもしれません。


6.病理医を見つけたら相談しましょう。電話かメールで連絡し、あるいは院内で直接話しかけるなどして、アポイントメントをとって、空き時間に進路の相談をします。現場で働く病理医はたいてい、複数の病院の病理医や大学病院の病理部と連携しているので、どこで研修すればよい病理医になれるかという情報を持っているものです。そういう情報を持っていなさそうな病理医もいますが、少し話をするとだいたい区別がつくと思います。


7.初期研修(2年間)が終わったら、いよいよ病理医としての「後期研修(3年間)」をスタートさせましょう。令和3年現在、後期研修先としては基本的に大学病院がおすすめです。市中病院だと取れない資格や経験できない診断があるからです。市中病院から大学に通って教えてもらうのは慣れていないとけっこうハードルが高いです(うまく調整してくれているなら別)。でも、大学で研修をしながら、ときどき市中病院に出張したり勤務したりするのはわりと楽なのです。本社から支部に出張するのは気楽、支部から本社に出向くのはプレッシャー、みたいな雰囲気はあります。


8.というわけであなたはどこかの大学病院、あるいはそれに類するレベルのでかい病院の病理部(病理診断科)に無事就職できました。言い忘れましたが初期研修も後期研修も給料は出ますので安心してください。まず、後期研修の開始時に、日本病理学会に入会します。年会費は自分で払うものですが、病院によっては科が研究費で出してくれることもあります(でも最近は少なくなりました)。日本病理学会に早めに入らないと、病理専門医という強い資格の受験要件を満たせませんので注意してください。


9.後期研修では主に3つのことをやります。

    1)基本業務を覚える:切り出し、顕微鏡の使い方、一次診断の書き方

    2)臨床各科とのカンファレンスに出てしゃべる方法を覚える

    3)解剖の経験を積む

    4)論文の書き方を学び、実際に書く

    5)本を読み、論文を読んで、講習会などに出て勉強をする

3つのことと書きましたがリストアップしたら5つありました。このすべてを「好きな順番にやる」のではなく必ず全てやる必要があります。1)だけで後期研修を終えるとあとあと全然働けなくなりますので注意してください。2)カンファレンスでの病理医の仕事をきちんと学ぶ機会は今後訪れません。3)解剖経験は大学にいる間に積み上げないと、病理専門医の受験資格にたどりつけません。4)論文を書かないと病理専門医にはなれません。5)勉強をしないとあなたが医者である意味がわかりません。


10.年によって受験資格が微妙に変わるのですが、後期研修の3年間が終わったあたりで、うまくいけば病理専門医の受験資格が揃います。ただし、人気の研修先だと病理解剖の症例を研修医同士で分け合うために、解剖経験数が足りないことがありますので注意が必要です。病理専門医資格はなくてもしばらくは働けますが、ないままだと晩年の就職が厳しくなりますので、医師10年目くらいまでにはとっておきたいものです。


11.この間、診断をしたり(すべての診断は上司がチェックしてくれます)、解剖をしたり、カンファレンスで奮闘したり、論文をがんばったりしますが、おそらく同時に「出張」も経験することになります。大学病院以外の関連病院の病理検査室におもむいて、現地の病理医といっしょに診断をします。大学とはひと味違った経験ができますのでやっておいたほうがよいでしょう。というか、大学でだけしか働いていない病理医はキャリアの中盤以降に働く場所を探す上でけっこう苦労するので基本的に出張経験はあったほうがいいです。


12.学会・研究会にはなるべく出席しましょう。「そういうのに出なくても、いい病理医にはなれるよ」という人は99.9%の確率で少なくとも臨床医からはいい病理医と思われていません。というか学会や研究会に出ないとふつうに勉強が足りなくなるので病理医として働く上で不都合が生じます。交通費や宿泊費などは、施設の研究費でまかなえないこともあり、自腹になるとけっこうな負担で年間軽く数十万は使うことになります。でも最近はZoomでいくらでも無料で出られるようになりました。かつて、「自腹で行くなんて意味がわからない」などとブツブツ言っていた人たちは、無料になってもZoom研究会に出席していませんので、結局は勉強する気が無い人たちだったのでしょう。


(補遺: 「わりと長い時間、勉強し続けられること」が医学部を出て医者になった人間の唯一自慢できる点だと思っています。一夜漬けで医学部に入れた人はほぼいないでしょう。積み重ねの先に医者になったことを自覚し、医者になってからも「積み重ねる能力者」、すなわちツミツミの実を持つものとして研鑽しながら実戦する、それ以外に医者が、特に病理医が給料をもらって働く価値はありません。)


13.無事、病理専門医になってから、やることはまだまだあります。大学で基礎研究にも興味がわいたら大学院に進学して実験論文を多く書くのもよいでしょう。また、診断に打ち込みながら臨床医と組んでさまざまな臨床論文を作るのもありです。留学を考える人もいます。大学の関連病院など、市中病院に籍をうつして、いわゆる「普通の病理医」として給料をもらいながら医療のために診断を続けることもできます。ただ、個人的には、「病理専門医なりたて」くらいだと市中病院でひとりで診断を引き受けるにはまだ経験が足りていないことも多いと思います。不安も多いでしょうから、大学のコネを使いながら、あるいはネットのコネなども駆使して、複数の病理医がいる施設で引きつづき勉強を続けましょう。


ここまで、医学部6年+初期研修2年+後期研修3年+専門医受験のための追加勉強1~3年でだいたい高校卒業から12年~15年くらいが経過しているはずであり、医師免許を取得して6年~9年目くらいのことが多いです。


しかしここまでの話をぜんぶひっくり返すようなことを言うと、病理医になるには他にもさまざまなキャリアがあります。たとえば大学時代から基礎講座に出入りして病理の人たちと仲良くなって、初期研修の最中からなんとなく病理ムードをムンムン漂わせているとか、逆に医学部ではない大学を出て、社会人になってから医師になろうと思って再受験(社会人ワク)して、そこから医者になって病理医になるとか、いちどはほかの臨床医になったんだけど10年目で病理医に転向した、みたいなパターンもよく聞きます。なのであまり型にはめた考え方をする必要はないのですが、ひとつだけ言うとすると、「どんなルートをとるにしろ、日本病理学会に入会したら一生勉強する気持ちでやっていくしかない」のと、「大学をはじめとするハブ空港的機関を活用し、前後左右に多くのコネを作りながらやっていかないとルートが見づらくなる」ということだと思います。ひとつだけと言いながらふたつ言ってしまいました。