2021年11月29日月曜日

病理の話(601) 生検のむずかしさ

胃カメラや大腸カメラを受けたことがあるか? ぼくは胃カメラだけある。大腸はやったことない。今43歳だから、そろそろ大腸がん検診を受けに行く。みなさんも、40を超えたら大腸カメラをやりましょう。いったん大腸の中を見通して、なにもなければ、大腸の場合は必ずしも毎年検診をうけなくてもよい、と言われています。アメリカなら10年後とか5年後にもう一度やろうねとおすすめされる。日本だと、次は2年後あたりどうですか、くらいの話になる。年齢や状況にもよるけどね。


さて、今日はそのカメラ……内視鏡検査の細かい話である。


さっきからカメラ、カメラと書いてきたが、昔は「ファイバースコープ」と呼んだ。今はファイバーとは言わずに単純にスコープと呼ぶ。ぐにゃぐにゃと曲がる、かなり細身の望遠鏡をイメージするといい。ヘビ的な。デジタルハイビジョンの高精細な画像で、消化管の粘膜をきれいに映し出してくれる。


そして、何か病気があったときに、スコープの先端に空いた穴からマジックハンドがのびる。スコープの中にはカメラや光源とともにトンネル的に穴が空いていて、この穴の中に、術者(医者)や内視鏡看護師が手元からさまざまな便利道具をつっこんで、スコープの先端から飛び出させて、マジックハンド的に何かの作業をすることができる。


このマジックハンド操作が……難しいのだ! 近くで見ていると息を呑む。


スコープはぐにゃぐにゃ動かせるのだが、完全に「自在」であるとは言いがたい。術者の手元にあるスイッチやダイヤルなどで動かしているだけなので操作性には制限がある。特に、「もうちょっと奥に伸ばしたい」とか、「左手前に向かってぐいっと旋回させたい」みたいな動きには苦労する。


みなさんも想像してみてほしい。それこそマジックハンド的なものを頭の中で持ってくれ。それを使って、そうだな……えーと……


1.部屋のカーテンをしめます。

2.カーテンの裏に、カーテンをたばねるバンドみたいなやつ(あれ何て言うの?)がありますよね。

3.2メートルくらいのマジックハンド(ただし先についているのは爪切りくらいの可動性しかない、小さなつまむ道具)を使って、自分は一歩も動かずに、カーテンの裏のバンドの表面をつまんでください。


わかる? これ想像できる?


まずカーテンを力任せにグイ―ってやったらだめですよ。そんなことしたら患者は絶叫するからね。丁寧にスッスッって避けないとだめ。


あと自分は動いたらだめ。もうすこし角度が……とかそういうのは手元の微妙な動きで考えてください。


さらに爪切りでバンドをつまむとき、あまり勢いよくグッと爪切りの先端をとじると「スルッ」ってすべってうまくつかめませんよ。歯がきちんと立つように、ある程度、ゆっくりと動かさないとだめ。でもあんまりゆっくりだと、


カーテンは風に揺れて動くから気を付けてね




いきなり風が吹いたのでおどろくかもしれないが、お腹の中でも、胃や腸はつねに「ぜん動」をしているのでうにょうにょ動いている。これを止める薬もあるのだが、ま、限度がある。ままならぬ動き、うにょうにょの動き、そしてマジックハンドの難しさ……。



こういったものを乗り越えて、ようやくつまみとってきた小さな小さなカケラを、病理検査室で病理医が、顕微鏡で見て診断をする、それが病理診断なのである。マーほんと、採取してきたやつが偉いよ。あと、検体採取の最中、じっとガマンしてくださっている患者さんたち、いつも本当にありがとうございます。うまくつまんでとってこられたなら、あとは病理医におまかせください。