体の中を見るための検査はいろいろあるが、CTとならんで「MRI」という検査があることをご存じの方も多いだろう。
CTとMRIは、一般的にはどちらも、体を輪切りにして断面を見ているような画像である。
本当は輪切りだけではなくて「任意の断面」を表示することができるのだけれど、その話はいったん置いておく。
CTがやっていることは、じつは胸部X線(レントゲン)と同じだ。体の片方からX線という「目に見えない光」を当てて、反対側にフィルムを置いて感光させる。骨はX線をあまり通過させないし、肺は空気が多く含まれていてスカスカなのでX線をいっぱい通過させる。この通過度合いの差がフィルム上に出てくるだけであり、ぶっちゃけ、「影絵」である。X線の当て方を細かく調節したり、影絵の描出方法をコンピュータ処理したりすることで、体の断面の情報を取得するのがCT。
CT=超・高度な影絵、というわけである。
一方でMRIは影絵ではない。きちんと説明するとすごく難しい話になるのだが、ごく簡単に言うと、「人体に当てるものと、フィルム(じゃないけど)に受け取るものとがそもそも違う」のである。なにそれ。
この「なにそれ」をイメージで説明するときに、ぼくがよく使う表現が、ピアノだ。
目の前にピアノがあって、そこに音楽の先生が座っているとする。
音楽の先生は何やら簡単な曲を弾いている。
ぼくらはそれを教室で聴く。
ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ。ファ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド。
キラキラ星だ。耳から音が入ってくる。
目をつぶって、頭の中で、「先生がどの鍵盤に指を置いているか」を想像することができる。
これ! 今のがMRIである!
MRIは、すごーく簡単に細部を省略しまくって言うと、「聞こえてくる音から、運指を思い浮かべる」ような検査である。音と指の位置というのはまるで違う情報だが、これらはピアノという楽器を通じて、ほぼ一対一に結びついているから、ドレミのどれかが聞こえてきたらたぶん指はここにあるだろうということが連想できる。
「MRIのT2強調が高信号なのでおそらくここには水分がある」
みたいな言い方をする。CTの「影絵」を想像しているとびびる。「は? 画像を見るだけで、ものの輪郭がわかるんじゃなくて、水分があるとかないとかいう物性がわかるの?」そう、わかるのである。
「MRIのT1強調画像、in phaseとopposed phaseで信号強度に差があるからここには脂肪がある」
みたいな言い方もする。なあに、恐れることはない。「聞こえてきた音から指を予測する」ことだって、子どもや動物には理解できない高度な話ではないか。それと同じなのだ。
……「恐れることはない」と書いたが、本当のことを言うと、MRIの解析は非常に難しいので、医者の多くもぶっちゃけ「恐れている」し、「自分の専門領域の臓器以外はうまく意味を掴めない」こともある。キラキラ星なら運指が思い浮かぶけど、ショパンのエチュードとかだと普通の人には無理だろう。それと一緒だ。MRIの画像の解釈をどこまでもやっていける専門家が病院には必要で、それが誰かというと、放射線科医と、診療放射線技師なのである。やつらは音楽家なのだ。