これまでのぼくは、自分のレベル上げをずっとがんばってきた。ファイガがあれば便利なんだけどなーとか思いながら。ケアルガほしいなーとか思いながら。
いつのまにかレベルは50を超え、フレアを覚え、ホーリーを覚え、メルトンも覚え、消費MPを1/4にするアイテムも手に入れ、そしてじつは、通常攻撃の威力が強くなりすぎており、8回攻撃とか当たり前で、魔法自体あまり使わなくても敵が倒せる。
ぶっちゃけもう十分だと思う。これ以上レベルをあげても、ゲーム性は損なわれる。
ボスにダメージを与えるごとにセリフが出るタイプの戦闘で、一撃でボスのセリフ数回分をぜんぶ表示させてしまうような、興ざめ展開。
自分というキャラクタひとりのレベルを上げることで、ゲームクリアは余裕になった。しかし、気づけば物足りなさがつのる。
このままクリアはできるがエンディングがさみしい気がする。
話は変わるがRPGでは、すべての「むらびと」に話しかける派だ。でも、たいていの「むらびと」は、同じことしか言わない。
町、村、城のあちこちにいる人びと。
みんな同じことしか言わない。
ただし本当は、セリフが一つしかない「むらびと」にも人生がある。
プレイヤーであるぼくには腹の内を見せてくれないというだけだ。
「ここはアリアハンだよ」の人は、「ここはアリアハンだよ」しかしゃべれないわけではない。ぼく以外の町の人がしゃべりかければ、時候の話題にも乗るし陽気に笑い合ったりもする。
しかしぼくという「勇者」に対しては、「ここはアリアハンだよ」という仕事のセリフしか告げない。
レベル上げをしてボスを倒すためにやってきた「勇者」なんて、「対・勇者用のセリフ」であしらえば十分だ。
勝手にレベルを上げて勝手にボスを倒してゲームをクリアしてしまう「勇者」に、「むらびと」は心を注がないし、人生を分け与えない。
最近、自分が「勇者」になっていないかということが気にかかる。
おはようございます。おつかれさまです。今いいですか。これどうしますか。わかりました。ありがとうございます。お先に失礼します。
ぼくは今、ちゃんと会話できているだろうか。
彼らの人生をシェアしてもらえているだろうか。
「ボスを倒せばみんな平和になるよ」と、ファンタジー的な思考で、世界の登場人物たちを勝手に「むらびと」呼ばわりして、「ぼくにセリフ1個2個しかくれないやつら」などと見当外れなレッテルを貼り付けながら、「レベルを上げれば殴って倒せる程度のボス」を相手に延々と戦いを挑んではいないか。
レベルカンストしてもモンスターしか倒せない、「勇者」……。
いや、そうだな、うーん。
勇者ならまだいいんだ。
ぼくはじつは「レベルカンストしたむらびと」ではないか。
クリアなんてない。
ボスもいない。というかたどり着けない。行動範囲内は町の中だけだ。
それなのに、「おはようございます」や「ありがとうございます」しかセリフをもらっていない。「勇者のように冷たくあしらわれるむらびと」だとしたら、どうする。
別にどうもしないけど、なんかもう少しサブイベントをがんばろうかな、とか思ったりもする。