2022年7月29日金曜日

病理の話(682) 学会のセッションあれこれ

うー。いそがしいぞ。


「日本デジタルパソロジー・AI研究会」の2022年定時総会( https://jsdp2022.com/ )で、「パネルディスカッション」の司会をやることになった。さらに、来年の日本消化管学会、日本胃癌学会、日本消化器関連学会週間(JDDW)で相次いで「シンポジウム」に出ろとのお達しがそれぞれ違うところから一気に来た。準備にあたふたしている。


ここで言う、「パネルディスカッション」とか「シンポジウム」といったカタカナは、社会の人の多くが「なんとなく聞いたことはある」と思うが、実際になにをやっているのかはあまり知られていないのではなかろうか。

そこで今日は、学会・研究会における「いろいろなイベント」の説明をする。



まず、ひとくちに学会や研究会と言っても、規模はさまざまだ。

政令指定都市などにある「国際会議場」を借り切って、1000人入るホールや100人規模の会議室などをいくつも同時に運用する場合もあれば、

ホテルの会議室(200人収容)で朝から晩まで同じメンバーでやりとりをする、というパターンもある。

そこで何をやるかというと、ざっくりまとめれば、「ひとつの場所に人が集まって、少数の人の話をみんなで聞き、場合によっては会場と質疑応答をする」みたいなやりとりである。

で、その、「誰かがしゃべってみんなが聞く」にも、バリエーションがある。



・講演(特別講演、招待講演、教育講演など)

・シンポジウム

・パネルディスカッション

・ワークショップ

・教育セミナー

・一般演題(口頭)

・一般演題(ポスター)



こんなところか。

以上の言葉は一般にも用いられるが、学術集会の場合、多少ニュアンスが増える。そこで、今の一覧に、しゃべる人が「偉いか偉くないか」という観点を加えてみよう。

(※あ、偉いというのはたとえというか、ちょっぴり皮肉も入っているかもしれないので、「そうか~偉いんだ」と正直に受け止めるのではなく、「偉いってことはなるほど年取ってるのね」くらいで読んで欲しい。)



・講演(特別講演、招待講演、教育講演など): 偉い or 超偉いまれに担ぎ上げられて偉くさせられている

・シンポジウム: 業界のエース級たまにめちゃくちゃ偉い

・パネルディスカッション: エース級

・ワークショップ: エース級が多いが若手のホープのこともある

・教育セミナー: 偉い、もしくは偉さを通り越して実績がいらなくなった仙人

・一般演題(口頭): ふつう

・一般演題(ポスター): ふつう(やや若い)



次に、そのような人たちが何をするかを書き加えよう。



・講演(特別講演、招待講演、教育講演など): だいたい偉いまれに担ぎ上げられている人がステージにひとりで上がって、数百人クラスの聴衆を相手に、自分の業績や医学の最新の動向などを自分なりにまとめて1時間前後しゃべる。座長と呼ばれる笑点の司会みたいな人がステージの片隅で話を聞いていて、最初と最後に司会っぽくしゃべる。

・シンポジウム: 業界のエース級たまにめちゃくちゃ偉い人が、数人呼ばれて、決められたテーマに沿って15分とか20分くらい、ほとんど講演じゃんというくらいに自分の実績などを自在にしゃべる。人数分。それが終わったら各演者の発表をもとに「全体討論」をすることもあるが、時間が足りなくて省略されることもある。

・パネルディスカッション: エース級の人が、数人呼ばれて、決められたテーマごとに「立場に分かれて」、立場Aの人が15分、立場Bの人が15分、みたいに順番にしゃべる。そして「全体討論」をする。この全体討論は省略できない(省略するとシンポジウムと区別がつかなくなる)。けどたまに省略されることもある。

・ワークショップ: エース級が多いが若手のホープのこともある人が、数人呼ばれて、決められたテーマに沿って15分とか20分くらい、自分の実績などをしゃべるので、ぶっちゃけシンポジウムとやっていることはほとんど変わらないのだけれど、シンポジウムよりも少し「若い発表」のことが多くて、演者のミニ講演じゃん……というほどは講演っぽくないというか、つまりはなんか、シンポジウムばっかりだと学会っぽくないから一部はワークショップにしとこ、みたいな感覚がある。全体討論というよりも座長(笑点の司会)が全員にツッコんでいくみたいなことをよくみる。けど学会によってはほとんどシンポジウムだったりする。

・教育セミナー: 偉い、もしくは偉さを通り越して実績がもうあまりいらない人が、若手や現場の医療者達の役に立つ内容を普通に講演する。その内容は一度どこかで話したものであってもよい(なにせ教育だから)。したがってすごく役に立つ。どちらかというと「誰か偉い人を呼んできてしゃべってもらう」というよりは、「学会が常備している”しゃべれる先生”をここぞとばかりに繰り出してみんなに勉強してもらう」みたいな感じなので、やっていることは講演なのだけれど実績としては若干評価がされにくいというか、もう業績なんていらないくらいに偉くなりまくった人が余力でしゃべっていることもある。そうじゃないこともある。

・一般演題(口頭): ふつうの医療者が、何人も順番に出てきて、それぞれが自分で調べて研究した成果などを7分とか10分といった短時間でしゃべり、会場から質問を受けたり、座長(笑点の司会)がツッコミを入れたりする。いわゆる「普通の学会発表」はこれ。

・一般演題(ポスター): ふつう(やや若い)の医療者が、自分の研究成果などをフスマくらいのサイズの大きな紙に印刷して、コミケの会場みたいなイメージの会場に何百人も集まって専用の会場にポスターを貼りまくる。学会参加者は好きな時間にそれを見てまわる。決められた時間にポスター作成者は、自分のポスターの前に立って、道行く人に質問を投げかけられそれに直接お返事したりする。わりとおもしろい。ポスターだけ貼って、説明の時間に逃げてしまう人もいる(貼り逃げ)が、学会実績としては登録されるけれどそれだとつまらない。勉強にならない。貼り逃げは卑怯



あんまり書くと怒られるのでこのへんにしておく。ぼくは医者19年目であり「経験年数的にはエース級じゃなければ困る」レベルなので、最近パネルディスカッションやシンポジウムなどの演者としてお声がけいただく機会がふえはじめた(※優秀な人だともう少し早く声をかけられている)。でも一般演題も大事なのでこれからも研修医などといっしょにときどき演題を応募し続けたい。がんばって学術に貢献します。