2023年3月31日金曜日

天下一の味覚

最近、病院の1階に入っているローソンで夕方にオヤツを買うようになった。44歳までいちども経験したことのない習慣であり、多くの知人に「それはもったいなかったねえ」みたいに言われたので、そうか、オヤツって食べていいんだな、と納得して取り入れることにした。帰宅して晩飯を食うまでにはまだ5時間くらいあるからここでエネルギーを補給しておくのはよいことだ。なぜ今まで気づかなかったのだろう。

最初は、ジェネリック・バターサンドとかジェネリック・栗まんみたいな手で持てるお菓子ばかり買っていたのだ。そこから少しずつ幅を広げて、ワッフルとかシュークリームみたいなものを買ってもみたが、さすがにそこまでクリームクリームしているものを食うと晩飯に影響しそうで気が引ける。小さいのがいいと思う。

今日買ったのは「ブルーベリーのチーズケーキ」である。プリンのような容器に入った小さなオヤツで、乳白色のチーズケーキの上にわりと分厚くて濃厚なブルーベリーソースがどんと乗っていていかにもうまそうだ。スプーンを付けてもらった。ぼうっとした今日のぼくが店員だったらきっと「スプーンとお箸どちらにしますか」と客に訊ねて笑われただろう。客のほうでよかった。フタを剥がそうと指を添えると、商品の正式な名前が目に入った。「ブルーベリーのチーズケーキ ブルーベリーソースがけ」。

そうかあ、ブルーベリーを混ぜ込んだチーズケーキの上に、さらにブルーベリーソースをかけている、ということか。「追いブルーベリー」だな。

昔、マンガ「BAR レモン・ハート」で、タリスカだったかボウモアだったか、クセの強いモルトをハイボールにしたあとに、上に原酒のウイスキーをちょっとだけフロートするという飲み物を紹介していて、すごくうまそうだなと思っていたら、現実に存在するなじみのバーで同じ出し方をしていると知り、狂喜乱舞して注文し、うまいうまいと飲んだなあなどと急激に思い出が蘇る。バー……久々に行きたいな。忘年会も新年会も送別会もなかった、歓迎会もたぶんやらない。でももう飲みに行ってもいいような気はしている。しばし呆然とよしなしごとを考えてから、ブルーベリーのチーズケーキにスプーンを入れて食べ始めた。

うまい。オヤツってうまいな。ブルーベリーのほどよい酸味とチーズケーキの濃密な舌触りとがシーソーを軽く揺らして楽しくバランスをとっているかんじ。


しかしこれブルーベリーのチーズケーキではないよな、と思った。チーズケーキのブルーベリーソースがけであって、ブルーベリーのチーズケーキのブルーベリーソースがけではない。わかっていただけるだろうか。炭酸にウイスキーをフロートしたものと、ハイボール(ウイスキーの炭酸割り)にさらにウイスキーをフロートしたものとは別モノだろう。ぼくは商品名を見て、「ブルーベリーの味や風味がねりこんであるチーズケーキ」の上にさらにブルーベリーソースがかかっているということに興奮したのに、これはつまり「プレーンなチーズケーキの上にブルーベリーソースがかかっているだけ」ではないか、なんだかダマされたな……。


いや……ダマされたは言い過ぎだな……うまかったからいいか。そう思い直して食べ終わる。ごちそうさまでした。ちなみにこういうデザートって検索したら出てくるのかな。これか。ローソンで作っているわけではなくて、お菓子の専門業者が作ったものがローソンで売られているということらしい。


https://www.andeico.co.jp/2015/01_product/00_new/blue_berry/


「アンディコ」のチーズケーキ。解説を読む。


「オーストラリア産クリームチーズを使用したチーズプリンと、自家製ブルーベリーソースの2層デザートです。」


ん?


「オーストラリア産クリームチーズを使用したチーズプリンと、自家製ブルーベリーソースの2層デザートです。」


あっ! チーズケーキですらない! チーズプリンだって!! さっきめちゃくちゃ偉そうに「ブルーベリーのほどよい酸味とチーズケーキの濃密な舌触りとがシーソーを軽く揺らして楽しくバランスをとっているかんじ」とか書いちゃったけどこれチーズケーキじゃないじゃん! 


つまりぼくはブルーベリーの風味付けをしたチーズケーキにブルーベリーソースがかかったものを買って食べたつもりが、プレーンなチーズプリンにブルーベリーソースがかかったものを食べていたのだ。ハイボールにウイスキーをフロートしているものを飲んだつもりがじつはホッピーのソーダ割りにドランブイを……まあもうおいしかったからいいか……。