何をするにしても、気が散っている。
いつもなら、音楽をイヤホンで聞き流しながらメールを書くこともできるし、昼飯を食いながら午前中の診断について考えることもできる。スポーツを見ている最中に先日読んだマンガの内容を思い出すこともできるし、寝ながらツイートのネタを思いつくこともある。
しかし、今、とても気が騒いでしまっており、どうにも、複数のことに目を配れない。
何をしていても、考え始めてしまった新しい講演スライドの構成のことばかり思い浮かんでしまい、なにも手に着かない。
こないだ、食事中に、同席者に指摘されてしまった。
「どうした、ぼーっとして。気が散ってるみたい。」
「そうなの。気が散ってるの。すまんね。」
「何に気が散ってるの?」
「講演スライドなんだけどね。」
「講演スライド?」
「あの内容とあの内容を盛り込もう、あれとあれも入れよう、もう8年くらい考えていたアレもこれも全部入れてしまおう……そうやってずーっと考えているんだよね。」
「それさあ、」
「うん」
「気が散ってないじゃん。一途じゃん。」
「ん?」
「集中しちゃってんじゃん。だから他に気が回んないんじゃん。」
「ん?」
「気が散ってないじゃん。」
「そうか。」
「気が散ってるみたいに集中しちゃうの?」
「そうみたいだね。」
「ふーん。」
「そうみたいだね。」
「今、一回返事が多かったよね。」
「そうみたいだね。」
気が散っていなかったらしい。
逆なのだそうだ。
ということは、気が集まっている、ということか。
魔貫光殺法であるな。
「当たらなければ意味がない」ってやつだ……。
「当たらなければ意味がない」ってやつだ……。