2017年8月21日月曜日

病理の話(112) 何度でも語るレゴブロック的細胞ばなし

レゴブロックが無数にあったら、人間の形をきちんと再現できるだろうか。それはもちろん、できるだろう。

実際、レゴのお祭り(?)みたいなのに行くと、恐竜とか自動車とかエッフェル塔みたいなものを、レゴでうまいこと作り上げている。お城なんかも見る。あれはすごいよね。

ところで、外面の輪郭だけではなく、内臓まで作れるだろうか。

細かく、細かく、細胞の配列まで。

レゴブロックが無数にあれば、あと、広い広い作業スペースと、根性があれば。きっとできるだろう。

だから、今から、爆裂に広い体育館と、無数のレゴブロックと、自由に動かせるクレーンリフト(作業用)、すごく性能のいい接着剤、その他、ありとあらゆるインフラを各自の脳内で準備してもらいたい。

準備はよろしいか。




作業を始める前に。やたらめったら端から順番に臓器やら血管やら心臓やらを作る前に。

どのような形が「頻繁に登場するか」ということを考えておくと、レゴブロックを準備するときに、ラクで良い。

レゴの達人は、あらかじめ、パーツをきちんと小分けする。色とか形とか機能ごとにまとめて、工具箱のようなものにしまっておく。

その方が効率もよいし、必要な形をスバヤクつくることができる。

だから、我々も、「人体を作る上で、何度も使いそうなパーツ」をきちんとより分けておこう。




人体の中で、もっとも重要、かつ、しょっちゅう登場する構造というのは……

・パイプ

だ。

血管はパイプである。リンパ管というのもある。食道もパイプだ。尿道だってパイプだ(カットという言葉もあるだろう)。胃もふくらんだパイプ。乳管だって、尿管だって、胆管だって、精管だって、その名の通り管である。

パイプばかりなのだ。人体は。

それと、もうひとつ大切なのが、

・プレゼントボックス

である。中から水とか粘液とかが出てくる。

臓器というのは、たいてい、これらの組み合わせで作られている。

本物の人体には、ほかに、筋肉とか脂肪、そして神経があるんだけれど、レゴのように「動かさず、飾って楽しむもの」なら、神経を電線のように張り巡らせるのはパスしてよい。脳のあるべき場所にはパソコンでも叩き込んでおこう(ニューラルネットワークとはシャレが効いている)。筋肉や脂肪もハリボテでよかろう。



プレゼントボックスにはふたがついている。ふたが空く場所は基本的に1箇所だ。横とか下は空かない。

プレゼントボックスを横にならべて連結させる。そうすると、まとまった量の水とか粘液とかが出せる、「噴出口」ができる。

噴出させっぱなしでは、そこが噴水みたいになって終わりだ。だから、出てきた液体をパイプに集めて流す。目的の場所へと流す。

肝臓にあるプレゼントボックスは肝細胞という。パイプは胆管だ。プレゼントボックスから出てきた液体(胆汁)を、パイプに流し、パイプはそのまま十二指腸という大きなパイプに接続される。

乳腺にあるプレゼントボックスは乳腺腺房(せんぼう)細胞という。パイプは乳管だ。プレゼントボックスから出てきた液体(乳汁)を、パイプに流し、パイプはそのまま乳頭に開口する。

腎臓では少々複雑なことが起きている。パイプとしてまず血管がある。血管は細かく枝分かれしながら腎臓に入り込み、パイプに空いた細かい穴がボックスと接している。ボックスの中に、血液の中に入った不純物、いらないゴミが置いていかれる。プレゼントボックスというよりはダストボックスである。ダストボックスは、もう1種類のパイプ、すなわち尿細管(にょうさいかん)と呼ばれる管とも接続していて、こちらの管にはゴミをプレゼントする。尿細管は集合管に流れ込み、集合管は腎盂に流れ込み、腎盂は尿管に流れ込み、尿管が膀胱に接続し、膀胱が尿道にくっついて、最後は液体(尿)が体外に排出される。



人体ってのはつまるところ全部これなのだ。

やりとり、流れ、運搬。

つまるところ、なんて書いたが、「詰まって」しまっては大変なのである。

心筋梗塞: 心臓のパイプ(冠動脈)が詰まる病気

脳梗塞: 脳のパイプ(動脈)が詰まる病気

尿管結石: 尿を通すパイプ(尿管)が石で詰まる病気

胆嚢結石(たんせき): 胆汁を溜めるパイプ(というか袋)(胆嚢)が石で詰まる病気

これらは全て痛みを伴うし、ときには命にかかわる。



人体、特に内臓を作るときには、パイプとプレゼントボックスをうまく組み合わせることが肝要である。というか、それ以外あまり考えなくていい。

2つ並んだプレゼントボックスの、ふたとふたがくっついていたら開けられないだろう。

だからプレゼントボックスを並べるときには、ふたはみんな同じ側に揃えておこう。

パイプを試験管の形(盲端)にして、はしっこのあたりにプレゼントボックスのふたをいっせいに開口させたら、試験管は噴出口になるだろう。

パイプの角度をあまり頻繁にいじってしまうと、ねばねば粘液を運ぶときに詰まってしまうから、自然界の川のように自然な鋭角で流れ込むようにしよう。

プレゼントボックスを直接太いパイプに開口させると、太いパイプからの逆流でボックスが壊れてしまうから、なるべくパイプを枝葉のように分岐させて、プレゼントボックスは枝の一番先のあたりに開口させよう。

……レゴか、マイクラか、という感じで、このように、パイプとボックスの配置を考えて考えて、考えまくる。




考えた先が、人体なのだと、思っていただいて結構である。

だから解剖学とか組織学を勉強すると、あまりにうまくできた人体の仕組みにほれぼれすることになる。このレゴ作った奴すげぇなあー。