経口補水液「OS-1」の側面表示を見てみると、
「医師から脱水状態時の食事療法として指示された場合に限りお飲みください。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士の指導に従ってお飲みください」
とある。ぼくは医師だけど、「指示されてない」から飲めない(ということになる)。あるいは、鏡に向かって、自分で自分に「飲め!」と指示していいものなのだろうか。
二日酔いの日にコンビニで買って普通に飲んでしまった。飲んだあとに側面表示に気づいて、あっやべっとなった。
杓子定規に、そういうことである。
昔、アゴにできた小さな粉瘤(ふんりゅう)を、うちの病院の皮膚科にかかって採ってもらったことがある。局所麻酔で10分くらいで採ってくれた。
粉瘤とは「できもの」であるが、厳密には腫瘍(しゅよう)ではない。詳しくは説明しない。まあ採ってしまえば安心、というか、ぼくの場合は、見た目的に困っていたのが気にならなくなる、くらいのものであった。
病院で体から採ってきたモノは、ほぼ例外なく、病理検査室に運ばれて、病理医が診断することになる。
ぼくは自分の体から採ってきた粉瘤を、自分で処理し、自分で顕微鏡で見た。
……ただ、ここで気づいた。たしか、医者というのは、自分で自分の診断をしてはいけないのではなかったか?
たとえばぼくが呼吸器内科医だったとして、自分にぜんそくやアレルギーの薬を処方することはできない。そんなことをしたら、ほしい薬をいくらでも手に入れられてしまうから、と言われている(たぶんほかにも理由はある)。胃薬とか頭痛薬のようなものも、自分で気軽に手に入れることはできない。睡眠薬もだ。
それは厳密なルールである。
ただ、病理医はどうなのだろう。病理診断はどうなのか。
病理診断とは立派に保険診療に組み込まれたシステムであるから、やっぱり自分の病気を自分で診断するのはまずいのかもしれない。
ほんとうは法律とかをちゃんと読むと書いてあるのかもしれない。けれどいろいろめんどうになって、ボスに診断しなおしてもらうことにした。
杓子定規に、そういうことを気にした。
「荒野の赤信号で止まるか」みたいな例え話をよく聞く。ぼくは荒野の赤信号を見たら止まるだろうか。
たぶん、電線がどこから引かれているのかが気になって、もう信号どころではなくなって、いつのまにか青信号になっているだろうな。
ルールを守ったときに出るアドレナリン、みたいなのがあるのかもしれないなあ、と思う。
「ルールに縛られたくない」みたいなことを言うやつはコドモだ。
ぼくはオトナだから、縛られても気持ちいい瞬間を探すのである。ちょっとニュアンスが変わった気がするが。