難しい本をゆっくりと読んでいる。
この本の筆者はとても優しい。
「今の文章は、『あの本』が頭に入っているとスッとわかるように書いているんだよぉ」
そうか、そうなんだ! じゃあ「あの本」を読んでからにしようかな!
……とまでは、なかなか、ならない。ぼくは怠惰である。ひとつの本を読むために、前提となる知識を別の本から輸入してこなければいけないとき、申し訳ねぇ、申し訳ねぇと手刀を切りながら、スッとわかるはずのところをズッと読んでいる。
そういえば、符丁、という言葉もあるな。歌舞伎が怖くて見に行けない。宝塚も怖い。劇団四季でぎりぎりだ。関ジャニ∞は無理かもしれない。常連としての知識がないと楽しめない文化がとても怖い。怖いけど、楽しそうだ。
辛いけど、うまそうだ、のカレーの理論と似ている気がする。香辛料を減らしたカレーは甘くておいしい。そして、いつも思う、「いつかは本場の辛いカレーを食べてみたいなあ」。
ぼくはなんだかブログにときどきカレーのことを書いているんだけれど。
そこまでカレーに興味はないんだけれど。
札幌に、「ミルチ」というカレー屋があって、実家からは少し距離があったけれど、生活圏内だったのでときどき食べに行っていた。ここのカレーはうまい。ナンカレーをはじめて食べたのもここだ。
ナンカレーをはじめて食べるときですら、ぼくは激しいハードルを感じていた。もっと言えば、ぼくは若い頃、「店で飯を食べる」こと自体に臆していた。
ミルチに初めて行った日は忘れもしない20代のいつだったか(忘れとるやないか)、おっかなびっくり薄暗い店内に入り、フロアに庭石みたいに点在するテーブルのひとつに付いて、おばちゃんがメニューを取りに来るのを待った。
おばちゃんは言った、「いらっしゃいませ」
ぼくは答えた、「ど、どれがおすすめですか」
おばちゃんは目を少し開いてこう言った、
「上から順番でいいと思う(笑)」
ぼくはこの、「常連でない人間をうまく救うセリフ」に、人生の中で何度か救われている。
ツイッターをはじめとするSNSには符丁が多い。
SNS素人なのでよくわかりませんが、という言い訳からはじまるリプライをいただくこともある。
SNSは歌舞伎座みたいなもので、ある程度知ってからじゃないと楽しめない側面がある。
でも、ブログは、ミルチであったらよいなあと、ぼくは忘れもしない昨年の秋の確か9月か10月ころに、思ったのだった。忘れとるやないか。