2019年11月8日金曜日

病理の話(382) 工場と道路の話

最近は出張のことばかり書いていたが、思い出したように「組織学」の話を書いておく。




人間の体の中には大量の「工場」がある。工場はたいてい液体を作っている。ねばねばする粘液(ねんえき)、さらさらする漿液(しょうえき)。あるいは液体に溶けるタイプの製品……消化酵素みたいなものを作っている。

こうして作ったものは、当たり前のことだが、適切な場所に運んで使わなければいけない。

人間社会といっしょだ。洋服を作ったまま工場に置いておいたらユーザーには届かない。輸送する必要がある。

工場で洋服が作られたらそれをトラックに乗せて、工場の敷地を出て、県道を走り、大きな国道に出て、人がいっぱいすれ違う渋谷のお店に運ぶ必要がある。

まったく同じ事を人体内でもやっている。

人体にある工場はいろいろあるが、たとえば「腺房(せんぼう)」というのがある。膵液(すいえき)を作る腺房、唾液(だえき)を作る腺房、乳汁を作る腺房などいろいろある。これらは洋服を作る工場やソファを作る工場や東京ばな奈を作る工場があるというのと同じ事だ。場所によって違うものを作る。

腺房で何かを作ったらそれを「導管(どうかん)」に流し込む。腺房の周りにはりめぐらされた導管は、工場の周囲を走る小道のようだ。それをたどっていくと、小道がだんだん集まって、大きな目抜き通りに繋がっていく。

たとえば膵液は、膵臓(すいぞう)の腺房で作られて、末梢膵管(まっしょうすいかん)と呼ばれる管に流し込まれ、それが寄り集まって主膵管(しゅすいかん)に合流する。まるで川が源流から大きく集まっていくように、一級河川である主膵管は堂々と膵臓のど真ん中を流れて、最後に十二指腸に開口する。

唾液は唾液腺導管に流れ込んで口の中へ。

乳汁は乳管に流れ込んで乳頭へ。

とにかくこういう構造がいっぱいあるのだ。胃液も、大腸の粘液も、それぞれサイズというか規模はいろいろ異なるんだけれど、基本的に「作って、流し込む」構造に沿っている。よくできている。

人体は工場と道路の組み合わせなのだ。



なおホルモンという物質を作り上げる工場を内分泌臓器(ないぶんぴつぞうき)という。これは導管とは連続していない。代わりに血管と連続する。ホルモンは血管の中に流れ込まなければいけない。だって血管の中で働く物質だからね。




なーんてことを知らないと実は人体の科学や病気のりくつがよくわからなくなる……と信じて勉強してきた……のだが、実はそれほど知らなくてもいいのかもなーということを最近考えている。テレビの仕組みがわかんなくてもテレビは見られるよ、的な。

でもまあ知っといてもいいよね。オタクはそういうのが大好き。きっとオタクに限らない。