2019年11月29日金曜日

毛玉

気に入った服があると、あれこれといいわけをしながらもその服をひいきして、結果的に他の服よりもはやくボロボロにしてしまう。

駅やイオンの中に入っている店で買った、ベルトを通す穴はあいているがウエストにヒモも通っているので、ジャケットスタイルにも合わせられるしカジュアルにも着られるタイプのパンツ。

だいぶ伸縮性がいい。よくストレッチする。膝が楽だ。尻も楽である。座っている時間が長いのでありがたい。

ああこれはいいなあ、と思い、色違いを2本買って着回していた。そして秋口になると、中にワタの入った厚手のバージョンが出るのだ。これがとにかく最高なのだ。驚喜して3本買った。

もう、ひたすら着回している。職場に履いていく、休日に本屋に行くときに履く。出張のときもスーツとは別に持っていって履く。移動もラク。革靴にも合う。ほかのパンツをすっかり履かなくなった。

あまりに極端にこればかり履いていたせいで、3本買ったにもかかわらず早くもそのうちの1本が毛玉まみれになってきた。デスクでふと太ももを見たら違和感があり、目をこらすと無数の毛玉がこっちを見ていた。目玉みたいにいうな。




あれこの話書いたかな?

あちこちで文章書いて忘れている。

たぶんこのパンツの話はぼくにとって「気に入ったストーリー」なのだろう。

語るポイントがいくつかあり、誰も傷つかず、少し情景が浮かびやすく、共感も得られ、失笑も得られる。便利すぎる。ラクだ。

だから一度書いてもまたつい書いてしまう。

これって気に入ったパンツを履き続ける構図とそっくりだな。

となるとこの文章の中にもおそらく毛玉ができている。

毛玉ができて、知らず知らずのうちにクオリティが下がっている。けれどもぼくはそれを見てむしろ、「毛玉があるとなんだか暖かそうに見えていいじゃん?」などと本質を外した擁護をしたりする。




せっかくなので毛玉を仕込んでみた。

冒頭の6段落の最初の文字……の、アルファベット部分をならべると毛玉になる。

知らず知らずのうちに毛玉がそこにいて、黙ってこっちを見ている。