2020年11月5日木曜日

病理の話(471) 言い古されたことを何度も言う

たとえばこの「病理の話」にしても、同じ事を何度も何度も書く。それはなぜかというと、みんな、この形式のブログではバックナンバーなんて見ないからである。


このブログのPV数を見ていて気づいたことがある。それは、公開して1年くらい経つ記事と、最近の記事のPV数が、さほど変わらないということだ。

つまり、時間が経てば経つほど読む人が増えるわけではない。公開直後にワッと読まれて、あとはもう、ほとんど読まれない。


そのことをウェブに詳しい人にたずねたら、「それはブログの構造の問題ですね」と言われた。「過去の関連記事」みたいなものを表示する機能がついていないと、今の人々は昔に遡ってどんどん読んでいくようなことをしないのだという。


あるいは、Google検索でひっかかりやすいように対策をしておけば、「昔の記事がバズる」こともあるだろう。けれどもぼくはこのブログに関してそういうことを一切やっていない。


自然と、「ときどき思い出したかのように、同じ話題を何度もしゃべる」という形式のブログになり、読者もだいたい固定されて、毎日様子を見に来る、みたいなかんじになっている。





で、今日の内容をなぜ「病理の話」に書くかということなんだけれども、このような「ときおり思い出したかのように一度言ったことをまた言う」というのは、病理診断の報告書を書く際に、あるいは臨床医と話し合う際に、けっこう大事なプロセスではないかと思っているのだ。


医者は、一度念入りに説明すれば何でも覚えられる……わけがない。医者はそこまで優秀ではない。18歳前後で人より早く情報処理ができるようになった、というだけで医学部に入学しているが、40前後になればその能力はとっくにたいていの社会人に追いつかれている。当然、一度説明したくらいでは頭に入らない(昔はそうじゃなかった、と言いたい人はいる)。


だから、「思い出したかのように説明する」のがとても重要だ。特に、病理診断のように、たいていの医者にとってはたまにしか触れない、たまにしか世話にならないジャンルに関しては。


「Ki-67免疫染色ですが、陽性細胞数も大事なんですけど分布がもっと大事なんですよ」


「TTF-1免疫染色の感度も特異度も100%ではないですからね」


「遺伝子再構成検査を提出する際にはホルマリン固定ではなくて、生理食塩水で軽くしめらせたガーゼの上に検体を直接のせて、すぐに検査室に持ってきてください」


「ぼくが矛盾しませんと書くときはあなたに賛成ですの意味ですが、ほかの病理医が矛盾しませんと書くときもそういうニュアンスだとは限りません」



こういったことは、何度も言う。忘れた頃に言う。くり返し言う。付き合いの長い上級医になると、若手を横に同席させた状態でぼくが説明をするとき、途中から微笑んでいる。でもそこで茶化すような人はいない。なぜなら、上級医になるとおそらくみんなが、「何度も言うことの重要性」をわかっているからだ。



で、当然、患者にも「何度も言う」ほうがいいと、ぼくは思う。しかしこのとき、一部の患者は、「こっちが忘れると思って何度も言いやがる、なめやがって」と思うことがあるらしい。たまにツイートでも目にする。


や、そういうことでもないんですけどね。でもまあ言い方の問題もあるだろうなあ。