2021年4月8日木曜日

病理の話(523) ポリープの分類

「ポリープ」という言葉が。市民の間にわりと、それなりに、なかなかの割合で知られているというのは不思議だなーと思う。だって変な単語だよね。Polyp. 


大腸カメラでポリープとってもらった、みたいな使い方をする。市民権を得ているというのが興味深い。


サンゴやイソギンチャクのような海洋生物の界隈では、同じpolypと書いて「ポリプ」と読む。伸ばすか伸ばさないかの違いはあるが同じ単語だ。


語源や細かい意味については詳しくはかかないが、大腸や胃にできる「ポリープ」というのは、要は「キノコ的に発育するもの」である。形状はまさにキノコだ。


キノコが多様であるように、ポリープも実はけっこう多様である。


茎があったり、はっきりしなかったり。


表面がつるっとしていたり、ぎざぎざ、ふさふさしていたりする。


形の違うキノコが別の名前を付けられているのとおなじで、エノキ的な形をしたポリープと、椎茸的な形をしたポリープ、さらにはアフロヘアー(?)みたいな形をしたポリープは、それを作り上げている細胞が違う。


つまりポリープというのは複数の病気を含んだ概念なのである。「大腸カメラでポリープをとった」の一言だけだと、それがどういうポリープだったかはわからない。




そこで病理医が登場して、ポリープの正体をあばく。患者にとって一番ぎょっとするのは、ポリープが「癌」であったときだ。ただその頻度は必ずしも高くない。多いのは「過形成性ポリープ」、「腺腫(せんしゅ)」、「炎症性ポリープ」あたりだと思う。


ほかにも無数にある。過形成性ポリープのなかにはmicrovesicular hyperplastic polyp(対応する日本語がない)や、goblet cell rich hyperplastic polyp(対応する日本語がない)があるし、現時点で腺腫(せんしゅ)と呼ばれているものの中には、traditional serrated adenoma、tubular adenoma, tubulovillous adenomaなどがあり、ほかにもこれらの分類に入らないポリープとしてはPeutz-Jeghers type polypやJuvenile type polyp, inflammatory myoglandular polyp, muco-submucosal elongated polyp, そして忘れてはいけないのは隆起型のmucosal prolapse syndrome...



なーんてことを書くといかにも昆虫とか魚類とか、それこそキノコなどの分類学者っぽいんだけれどやはりこういうことは覚えておかないといけない仕事なのである。ポリープっつってもいろいろあるよって話でまとめても一切かまわない。「がん」にだけ気を付けておけばほかはそもそもあまり大勢に影響がないのだ(少なくとも患者にとっては)。


では分類はなんのためにやるのか? 分類するための分類? いや、じつはそうでもなくて、「そういうポリープが出てくるような体質」とかがないかなって調べるために有用だったり、あるいは、「ある種のポリープは放置しておくとその後がんになるかもしれない」みたいなことを研究するのにも役に立つ。このあたり、分類学とはいえども実学の趣があるよね、とみんなを言いくるめて研究費を取得したりするんだけど、どうも、キノコの分類と同じ気持ちでワクワクやっているようなふしもあるんだよな。理由はどうあれしっかりと知っておくことは、悪いことではないよ。人類にとって。