2022年8月3日水曜日

それはすなわち光ファイバーである

「タブロイド紙」という言葉もあまり聞かなくなった。いや、正確にはまだまだぜんぜん現役なのだけれど、タブロイド紙について言及する人が身の回りにいないのだろう。

この、「タブロイド」という言葉のまわりをたゆたう独特の「うさんくささ」は見事だなあと思う。

語源を調べると、タブロイドとは低俗とかゴシップのような意味は本来まったく持っていないので少し驚いた。「粉末の薬が当たり前だった時代に、ある会社が粉薬を小さく圧縮した錠剤(タブレット)を作り、それをタブロイドと命名した」という。一連のエピソードの中に雑誌とか写真週刊誌的な意味は一切ふくまれていない。

(参照先: https://gogen-yurai.jp/tabloid/ )

ではなぜ一部の週刊誌をタブロイドと言うかというと、それは、粉薬が錠剤になったことを「小型・持ち運びに便利」ととらえて、「タブロイド(のように小型である)」というニュアンスが加わったからなのだ。それまで存在した新聞とくらべて判型が小さく、報道内容もかんたんで写真などが加わっているものを「大手新聞」に対して「タブロイド紙」と呼んだようなのである。ははーなるほどねーという感じだ。少し前の日本人の語感であらわすなら、「ハンディ紙」や「モバイル紙」くらいの意味なのだろう。


ただ、そのような語源はともかく、かつてのわれわれは、週刊誌すべてをタブロイド紙と言うのではなく、とりわけ俗っぽい、どちらかというと闇と性と金のにおいがするものを選んでタブロイド紙と呼称していたように思う。これはひとえに、「タブロイド」という言葉のもつ「感性にうったえかける俗っぽさ」によるものかもなあ、と考えた。


ほかの人は知らないが少なくともぼくは、アンドロイドとかメトロイドなどの○○ロイドという言葉からは硬質で、銀色と深緑色が混じったようなカラーリング、もしくはひやりとした触感を感じ取る。そこに「タブ」、特に「ブ」が濁りを加える。言葉の意味は知らなくても印象として「したたか」で「憮然としていそう」で「殴っても効かなさそう」で「王道ではないのかもしれない」という感じ。

ファーストガンダムに「ジャブロー」という地名が出てくるが、あれを最初に音として聞いたときの感覚と混じる。


そして、つまりはそういう、「元の意味なんて特に知らなくても、深い由来なんてわからないままでも、語感だけでしっくりくればそれが一番ええやんけ」というノリこそがまさに「タブロイド紙」の真骨頂なのかもな、などということを考える。


今、タブロイド紙という言葉を使うのは主に45歳以上の人ばかりであろう。それより若い人にとっては語感ごと用済みになった。代わりにあるのはTwitterだ。言葉の響きが軽快で軽薄である。硬質で、薄い青と白が混じったようなカラーリング、もしくはつるりとした触感。「元の意味なんて特に知らなくても、深い由来なんてわからないままでも、語感だけでしっくりくればそれが一番ええやんけ」の部分は全く変わらない。いきいきとした低俗、それこそが、かつてタブロイド紙が世に与え続けた食物繊維的な栄養である。一切吸収されず、ただ排泄をスムースにするために取り入れなければいけない「栄養」があるのだ。