2018年7月30日月曜日

病理の話(226)

病理医は全医師の0.6%程度しかいない(全国で病理専門医は2300人程度、たとえば北海道には100人)という。かなり少ないポジションではある。

となると、病理で研修をする人間もほとんどいないのかと思うと、実はそうでもない。

「病理診断科での研修」を希望する初期研修医というのは、決して少なくない。



将来はふつうの臨床医になりたいんだけれども、研修の間にちょっとだけ病理の勉強をしたい、という人がそこそこいる。

一番多いのは、「腫瘍に関わる科」を希望する研修医である。

たとえば胃がん。たとえば肝臓がん。たとえば肺がん。

これらを専門的に診療したいと思ったら、病理診断について勉強しておくことは必ず役に立つ。というか、病理診断科に来なかったとしても、結局自分で病理の勉強をしなければいけない。だから、短い研修期間の一部を病理に割いておくというのは決して極端な選択ではない。




というわけで最近は初期研修医がちらほら病理に現れる。けれども彼らは別に病理医になりたいわけではないので、彼らを病理診断科のルーチンに組み込んで本格的に働いてもらおうとは思わない。おいしいところだけをつまみぐいしてもらう。1か月とか2か月程度で病理診断学の要点を学ぶというのは無理がある。「とりあえずこれからも一生、病理検査室とのコネがつながるよ」+「この先自分で勉強しようと思ったときのヒントを与えるよ」くらいのことしかできない。




一番いいと思っているのは、それまでの他科での研修で「気になった患者、興味があった症例」の病理を実際にみてもらうことだ。

本人のモチベーションが違うのである。

実際の患者の顔が思い浮かばないプレパラートに没入できるかどうかには経験がものをいう。

普通の医師は、会ったことも話したこともない患者のプレパラート一枚にはあまりうまく興味を示せない。

だから、まずは、「知っている人のプレパラート」からみるのがいいと思っている。症例はなんでもいい。




病理といえばまずは大腸ポリープ、とか、最初は胃生検からみる、などとプログラムを決めている施設もあるかとは思う。ぼくは元々そうやって育ったタイプだから、悪いやり方とは全く思わない。けれども、まだろくに内視鏡診断も経験していない状態で、小指の爪の切りカスよりもちいさな胃生検や大腸ポリープのプレパラートをみせられても、「これが診断か!」と実感するのは少々むずかしいように思う。




最初にみる標本が皮膚生検であっても、肝生検であっても、卵巣腫瘍であっても、胆石症の胆嚢であってもいっこうにかまわない。

頻度、重要度、所見の多さ。そういうことが重要なのではない。

だいじなのは、「この人の、この病気のプレパラートを、俺は生まれて初めて病理で見たんだったな」と意識して、知識を芋づる式に伸ばしていくプロセスではないかと思っている。





その上でぼくが初期研修医になるべく早い段階で教えると決めていることを特別にみなさんにも公開する。これは本当に特別大サービスである。完全にプロの教育だからだ。本来、無料でこんなところに書くなどありえない。これを読んだあなたは人生が変わるだろう。それくらいの貴重な情報である。くれぐれも心に刻んで欲しい。




1.夕方5時以降はプレパラートをみてはいけない。帰れ。目が疲れる。

2.当直明けに病理診断をしてはいけない。帰れ。目が疲れる。

3.顕微鏡の光量を落とそう。自分がよかれと思って設定した光量の6割くらいで十分なので、光量をしぼれ。目が疲れる。

4.接眼レンズがずれていると乱視みたいになって、酔う。学生実習の顕微鏡で酔った人はたいてい安い顕微鏡を使ったからだ。安い顕微鏡を使ってはいけない。目が疲れる。

5.腰を曲げないことだ。首の角度にも注意せよ。目が疲れる。