学会場や空港、新幹線の待合室などでPCを取り出して、論文を書いている人を何度かみたことがある。
もちろん、その中の数人は、あるいはエロ動画でも見ていたかもしれないし、けものフレンズでも見ていたかもしれないのだが、なんとなく、彼らは論文を書いていたんだろうなあ、という気がしている。実際に、知人に話しかけてみたら論文を書いてたよと微笑まれたこともある。
ぼくはそういう場所でなかなか仕事ができない。
だから、移動中のわずかな時間にPCを取り出す人を見るとつい、ひがんでしまう。すごいなあとあこがれていることは間違いないのだが、あこがれが焦げ付いて、そこまでできる人だけが偉くなれるんだろうな、どうせぼくには無理だよ、と心が炭化してしまう。
しょうがないので、旅に出るときには本を持っていく。ふだん読めないような医学雑誌もそうだけれど、ここぞとばかりに小説やエッセイを読む時間にあてる。仕事だけはする気にならないから仕方ないのだが、ぼくのそういう姿を学会の前に見つけた人からは、「おっ、余裕だね」と茶化されたりもする。
余裕なんてないんだけれど。
今ぼくは新潟空港にいる。これから札幌に帰る。持ってきた本をすべて読み終わってしまい、手持ち無沙汰になって、うーん、もしかしたら論文とまではいかなくとも、たまっている原稿くらいは書けるんじゃないかな、と、珍しくPCを起動してみた。
PCの熱が太ももに伝わって、じっとりと変な汗をかく。「第4章」と表題をつけたファイルを開く。
気付いたらこうしてブログを書いていた。だめか……なぜ旅の最中は仕事ができないんだろう?
「水曜どうでしょう」の嬉野Dの奥さんは、いつも何事か働いていないと落ち着かないタイプなんだそうだ。いつかどこかで読んだことがある。
けれども、旅の間だけは、ぼうっとしていられるんだそうだ。何もしない時間が心地よくなるのだそうだ。
嬉野さんが奥さんに、なぜだい、とたずねてからのやりとり、詳しくは忘れてしまったが……。
「自分は今、旅という有意義な行動をしているから、ほかになにもしないでいられるのだ。」
というような回答だったと記憶している。
ぼくは旅の最中に仕事ができない。しかし趣味の読書はできる。
つまり、ぼくは、旅を仕事だと考えているのかもしれない。
旅という大きな仕事の最中に、さらに別の仕事に浮気するということが、うまくできないのかもしれない。
だから、仕事中の息抜きとばかりに、こそこそと本を読んで楽しんだりしているのかもしれない。
ということは……。
いつか、のんびりと、趣味の旅を楽しむ日が来たら。
ぼくは移動中に仕事をしてしまうのではないか?