2018年7月18日水曜日

病理の話(222) 2の臓器の話

2が並んだので2の話をしようと思うのだが、体の中には2つある臓器と1つしかない臓器がある。

進化の過程で、臓器を2つ用意することがどう有利だったのだろう?

あるいは、臓器1つだけで運用することに何かメリットがあったのだろうか?

そういうことを考えてみよう。今日の話はいつもに増して、医学的根拠がないので、まあ、読み物というか、エッセイとして読んでほしい(いつもだけどさ)。



まず、人体というのは基本的に、「中心に1つの芯を通す」という系と、「左右に同じものを配置する」という系とが組み合わさってできている。

たとえば、

 ・消化管

は、体の中心を口から肛門までつなぐ、一本の芯だ。すごいくねくねしてるけど、基本は一本道である。

このメインストリートに、肝臓が胆管を通じて胆汁を流し込むし、膵臓が膵管を通じて膵液を流し込む。

肝臓や膵臓は、消化管という目抜き通りに直結して物資をやりとりする、巨大ショッピングビルみたいな存在である。

消化管、肝臓、膵臓など(ほかに食道もそうだし、胆嚢もそうだ)を、まとめて「消化器」と呼んでいる。すべて、体の中には1つずつしか存在しない。



なぜ消化器系の臓器は体の中に1つずつしかないのか。

たぶん、だが、

「食べ物という異物を外部からとりこむとき、『入国審査』をする場所が複数あると、セキュリティ的に不利」

だったから、じゃないかな。



ほんとうは2つとか3つとか用意したかったんだと思う。肝臓とか膵臓とか、生きていく上でなくてはならない臓器であって、本当のところは「控え」をほしかったはずだ。

けれど、これらを消化管の周りに複数配置するよりも、十二指腸のファーター乳頭という出口に「1本化」することを、人体は選んだ。

それはきっとリスクマネジメントだったんだろう。消化管の中には、生体にとってそのまま入国してもらっては困る「毒」が複数存在する。これを絶妙なバランスでいなして、体に必要な栄養だけを吸収するという高度な仕組みに、あまり余計な枝葉をいっぱいつけてしまうと、それだけミスやエラーが起こる頻度も増えてしまったのではないか。




リスクを最小化することを選んだ(?)消化器に対し、ほかの臓器は基本的に、2つずつ存在する。

・腎臓
・副腎
・甲状腺(正確には2つじゃないんだけど、真ん中でくびれて左右それぞれに存在感を出している)
・精巣
・卵巣

これらは、合計2つ配置されている。共通するのは、「消化管と直接関係しない」という点である。入国審査以外の部門はきちんと複数運用しているわけだ。空港にも売店やレストランはたいてい複数存在するだろう(よっぽどの田舎空港ならともかく)。




じゃあ、心臓は? 消化管とは連続していないけれど?

「心臓が2個も3個もあったらそりゃいいだろうさ! そういう魔王だっている!」

でもヒトである限り、心臓は1個しかない。なぜだろう。こんなに大事な臓器なのに。

つまりは、おそらく、「あえて1個で運用する必要があった」ということになる。




推測するに、「血液の循環を1本化せず、ポンプを2つ以上用意すると、2つのポンプそれぞれが生み出す血流が衝突したり合流したりするところに乱流ができ、血液が滞留して、その結果血栓ができやすくなり、血栓症で死ぬ確率が上がった」のではないか。

まったく科学的じゃないけどさ。

心臓を複数用意した動物モデル、というのをコンピュータシミュレーションで作れば、きっと、血栓ができそうな乱流があちこちに出現するんじゃないかなー、と思う。




どうやって科学的にこれらを証明すればいいのかは皆目わからない。

けれど考えるだけ楽しいから許してほしいんだよな。





そうそう、肺はなぜ左右に1つずつあるんだろう。

結局気管で一本化するのに。

わざわざ左右に分けるなんて。それだけDNAのプログラムも複雑になるだろうに?




……なんとなく、だが、「肺は臓器の中では特に大きく、しかも軽い」というのがカギじゃないかと思う。

こんな大きくて軽い臓器を1個だけ用意すると、体の左右のバランスが崩れてしまうのではないかな。

いや、うーん、まだほかにも理由はあるだろうなあ。魚類とか両生類から構造をしっかり観察すると、もう少し見えてくるものがあるかもしれない。




今日の結論は、実は最後にある。

すでにかなり高度な完成品であるところの人体だけを見ていると、「なぜこのような形をしているのか」を推測するのはかなり難しい。「そういうものだからだよ」と言いたくなってしまう。

けれど、進化の過程の中で、より原始的な構造をもつほかの動物と比べて、人間だけが明らかに違う構造をしている場合、そこには適者生存の過程でなんらかの「有利だった理由」が存在するはずだ、と考えることができる。

ぼくこういう話大好きなんだよ。まあ病理かんけいないけどな。