2023年1月12日木曜日

ランスライフ

オーディオテクニカのマイクにかぶせるポップガード(息が当たる部分のカバー)、すごく単純な構造……というかまさかの輪ゴムでマイクにひっかける形式で、笑ってしまった。




ちょっとよじれてるけど見逃してほしい。直してもまたよじれるのだ。

最初に同梱されていた黒い輪ゴムは、あっという間に切れてしまった。しばらく普通の輪ゴムで代用していたのだけれど、色味がダサいので、検査室のあちこちを探して黒い輪ゴムを2本見つけて、今このようになっている。もうちょっとやりようがなかったのだろうかと思うが機能的にはたしかに問題がない。


こういう「やりすごし」は人生の醍醐味……とまでは言わないけれど、人生の醤油味……というのもへんか、人生の隠し味……カレーに牛乳みたいなものかもな……なんてことを少し感じる。



ところで大人の社会は雑なやり過ごしに厳しいものである。前にスーツを買い直したとき、ジャケットのボタンをきっちりとめていれば見られないだろうと思ってしまむらで見つけた1000円しないベルトをしていたら、同席者(医者)に「ベルトもちゃんとしてください」と言われたので心底おどろいた。これってロングスカートはいてたのにパンツ見られるみたいなものじゃないですか、と反論(?)したら、ぼくの例え話を完全にスルーした上で、いや、そういう細かいファッションに気を遣ってない人ってなんとなく見てわかるんで、ベルトとか目が行っちゃうんですよねと、未必の故意で痴漢しましたみたいなテンションでとうとうとぼくのファッションをセンスごと殴ってくるので、怖くなってニフラムを唱えたけれどぼくよりレベルが高かったので消えてくれなかった。ザラキも効かなかった。

その人はかつて、しょっちゅう飛行機に乗って用もないのに海外に行くのが趣味であり人生だと言って、英語の通じないくらいの外国で現地の医者とワインを飲みながら写真をインスタにあげ、「世界のどこにいても仕事はできるから」、「昨日はパリのカフェで論文の査読をした」、「今日はローマの高級ホテルから研究費の申請を出した」と、ノマド的にバリバリ仕事をしていた人で、ほんとバイタリティのある人だな(それにしてはなかなか偉くならないな)と思っていたのだが、感染症禍になって海外に行けなくなるやいなや、

「世界はすっかり変わってしまった。」

みたいなクソキャッチコピーを毎日インスタに投稿するようになり(Facebookはもっとすごいと思うのだけれどあいにくFacebookの友人申請は消去した)、それでいて「昨日は論文の査読をした」「今日は研究費の申請を出した」と結局やっていることは大してかわらなかったりもする。お前の世界べつに変わってないんじゃないの? と言いたかったけれど、その人に言わせると、「私はその場を適当にやりすごすようなことはせず、いつも自分の最大の攻撃力で仕事をし、最高のコミュニケーションをとり続ける」のが信条なのだそうで、つまりは常時全力で生きていると言いたいらしい。そのくせ「年間何十万マイルも貯まってさすがに使い途がないw」みたいな生産性ゼロのクソツイートを平気で垂れ流しているので全力でそれかよと少しかわいそうにもなるのだけれど、ともかく、「やりすごさないタイプ」なのだという。

そういう人のもとには似た人ばかりが集まってきて、どんどん「やりすごさない系濃度」が高まり、結果的に浸透圧がすごいことになって、ある意味では水分をめちゃくちゃ引き込むグリコサミノグリカンもしくは尿素クリームみてぇな感じでいわゆる求心力を発揮しているのだけれど、ぼくから見るともはやその人は尿素というより尿細管に近いところがあって、つまりはおしっこを作り出すシステム、ナトリウムや水分ならぬお金や名声をいったん手放すのだけれど同じ界隈ですぐに再吸収して、結局クラスタの外にはもらさず内側にため込んでいく、そのためにATPを延々と使い続けているみたいな感じにも見える。もちろん、そういうシステムでばりばりやっている人がいるからこそ「世界」に適度な量のお金が流れていくし流れすぎることもないのだろうなあと感心しつつも、しょんべんみてぇな人生だなと少し笑ってザラキーマをぼそっと唱えてみたりもする。効かない。


必要なのはアストロンだと思うのだ。戦闘の切り札にはならないし、何かが少し好転することもないのだけれど、なんとなくその瞬間をやりすごしているうちに、「敵」のMPが少し減っている、みたいな姿勢。ベルトは買いました。