先日、ポートメッセなごやで開催された、健康未来エキスポ2019。
日本病理学会はここにブースを出した。「まなびのまち」と称された黄緑色の……ぶっちゃけキムワイプみたいな色合いの一角に、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師、整形外科医などといっしょに「病理医」というブースが設けられた。
ここでぼくらは子ども達に顕微鏡を見せて遊んだ。
その際に説明した内容の一部を、今日はここに記す。
”はい、これはオクラです。食べるオクラだよ。ふつうこんなものを顕微鏡で見ないよね。おじさんもオクラを顕微鏡で見たのははじめてだ。びっくりするね。
こうやってオクラの断面をみることができる。すごいだろ。オクラ、というか植物は、きちんと細胞でできているってことがわかるね。
動物も、植物も、まるでレゴブロックを積み重ねたみたいに、いろんな細胞が組み合わさって、膨大な量の細胞によって、できあがっているんだ。
ほらね、オクラの表面に生えている小さな毛にまで、細胞があるのが見えるね。
さて、今度はいよいよ、人間の細胞を見てみよう。
といっても。
ここでちょっと考えて欲しいことがある。
さっき、オクラをみるときには、ぼくらはオクラをこうやって真っ二つにしてさ。
プレパラートという、向こうが見えるくらい半透明のものを作るために、カンナみたいな道具を使って、まるでカツオブシを削るみたいに、オクラを薄く薄く切るんだ。
でもね、同じようなやり方で、人間を見ることができるだろうか?
たとえばさあ、ぼくがさあ、風邪を引いたとするよ。
ノドが痛くて、鼻水が出て、咳が出て、熱だってちょっとある。
具合悪いなーって言って病院に行ったとするじゃない。
そこでさ、お医者さんが、ではノドを調べましょうって言ってさ、
おじさんのノドをバッシーって斬ってもってっちゃったら大変じゃないかな。
ノドが痛いよって病院に行って、死んじゃうよね。ノドなんか持っていかれたらさ。
さっきオクラは真っ二つにしたけれど、人間の体をみるときには、真っ二つにするわけにはいかないじゃないか。じゃあ、どうしたらいいだろう。
ちょっと例え話をしようかな。
おじさんはね、病理医っていうんだけれど、実は料理もする。
たとえばね、とん汁を作る。おじさんは上手だ。おいしいとん汁ができるよ。
で、これをね、味見しようと思ってね。
お鍋に入っているとん汁を、全部飲み干しちゃったら、だめだよね。
味見だって言ってさ、全部飲んじゃったら、味見の意味がないわけだよ。
とん汁の汁を全部飲んじゃったらさ、それはもうとん汁じゃなくて、トンじゃん。
じゃあどうすればいい?
そう、一部をすくって、ほんのちょっとでいいんだよ、味見をすればいい。
だからたとえばおじさんがどこか具合が悪くなったとしてさあ。
そうだな、肝臓っていう臓器がここにあります。この右側のあたり。
だいたい1300グラムくらいかな。1500グラムってとこかな。
牛乳瓶1本よりちょっと重いくらいの、立派な臓器だよ。
これの調子が悪くてさ、これから調べようとね、そういうときにだ。
検査しまーすって言われて、肝臓を全部バッシーって取られちゃったらね、おじさんはもう明日には死ぬよ。そんなことしちゃいけない。
だから、このように、小さな針を刺すんです。
で、取れてきた、肝臓のほんのちょっと、一部分が、これ。
見てごらん。このプレパラートの上。
おじさんの小汚い親指の、爪の白い部分とだいたい同じくらいの大きさだ。たったこれだけでいいんだよ。
牛乳瓶1本ちょっとの肝臓を「味見」しようと思ったら、中年の爪の先くらいとってくればいい……
たったこれだけを、顕微鏡で見るだけでね、驚くほど多くのことがわかるんだよ。”
だいたいこんな感じの説明をしました。おもしろかったよ。いい子たちがいっぱい来た。