2019年4月15日月曜日

病理の話(314) 病理おじさん肝臓を味見する

先日、ポートメッセなごやで開催された、健康未来エキスポ2019。

日本病理学会はここにブースを出した。「まなびのまち」と称された黄緑色の……ぶっちゃけキムワイプみたいな色合いの一角に、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師、整形外科医などといっしょに「病理医」というブースが設けられた。


ここでぼくらは子ども達に顕微鏡を見せて遊んだ。

その際に説明した内容の一部を、今日はここに記す。




”はい、これはオクラです。食べるオクラだよ。ふつうこんなものを顕微鏡で見ないよね。おじさんもオクラを顕微鏡で見たのははじめてだ。びっくりするね。

こうやってオクラの断面をみることができる。すごいだろ。オクラ、というか植物は、きちんと細胞でできているってことがわかるね。

動物も、植物も、まるでレゴブロックを積み重ねたみたいに、いろんな細胞が組み合わさって、膨大な量の細胞によって、できあがっているんだ。

ほらね、オクラの表面に生えている小さな毛にまで、細胞があるのが見えるね。




さて、今度はいよいよ、人間の細胞を見てみよう。

といっても。

ここでちょっと考えて欲しいことがある。




さっき、オクラをみるときには、ぼくらはオクラをこうやって真っ二つにしてさ。

プレパラートという、向こうが見えるくらい半透明のものを作るために、カンナみたいな道具を使って、まるでカツオブシを削るみたいに、オクラを薄く薄く切るんだ。

でもね、同じようなやり方で、人間を見ることができるだろうか?




たとえばさあ、ぼくがさあ、風邪を引いたとするよ。

ノドが痛くて、鼻水が出て、咳が出て、熱だってちょっとある。

具合悪いなーって言って病院に行ったとするじゃない。

そこでさ、お医者さんが、ではノドを調べましょうって言ってさ、

おじさんのノドをバッシーって斬ってもってっちゃったら大変じゃないかな。

ノドが痛いよって病院に行って、死んじゃうよね。ノドなんか持っていかれたらさ。




さっきオクラは真っ二つにしたけれど、人間の体をみるときには、真っ二つにするわけにはいかないじゃないか。じゃあ、どうしたらいいだろう。




ちょっと例え話をしようかな。

おじさんはね、病理医っていうんだけれど、実は料理もする。

たとえばね、とん汁を作る。おじさんは上手だ。おいしいとん汁ができるよ。

で、これをね、味見しようと思ってね。

お鍋に入っているとん汁を、全部飲み干しちゃったら、だめだよね。

味見だって言ってさ、全部飲んじゃったら、味見の意味がないわけだよ。

とん汁の汁を全部飲んじゃったらさ、それはもうとん汁じゃなくて、トンじゃん。

じゃあどうすればいい?




そう、一部をすくって、ほんのちょっとでいいんだよ、味見をすればいい。




だからたとえばおじさんがどこか具合が悪くなったとしてさあ。

そうだな、肝臓っていう臓器がここにあります。この右側のあたり。

だいたい1300グラムくらいかな。1500グラムってとこかな。

牛乳瓶1本よりちょっと重いくらいの、立派な臓器だよ。

これの調子が悪くてさ、これから調べようとね、そういうときにだ。

検査しまーすって言われて、肝臓を全部バッシーって取られちゃったらね、おじさんはもう明日には死ぬよ。そんなことしちゃいけない。

だから、このように、小さな針を刺すんです。

で、取れてきた、肝臓のほんのちょっと、一部分が、これ。

見てごらん。このプレパラートの上。

おじさんの小汚い親指の、爪の白い部分とだいたい同じくらいの大きさだ。たったこれだけでいいんだよ。

牛乳瓶1本ちょっとの肝臓を「味見」しようと思ったら、中年の爪の先くらいとってくればいい……

たったこれだけを、顕微鏡で見るだけでね、驚くほど多くのことがわかるんだよ。”





だいたいこんな感じの説明をしました。おもしろかったよ。いい子たちがいっぱい来た。