2019年4月10日水曜日

食えなかったひつまぶしと食えたひまつぶしの話

「先日の名古屋出張ではおいしいものを食べられなかった、コンビニでカレー買って食べた」

という話をしたら、

「出張のときはおいしいものを食べる、っていう前提がしみついてるタイプの人だね」

と言われた。ぐうの音も出ない。

まったくだ。別に出張したからって、おいしいものを食べる義務などはない。




最近食べて一番うまいなーと思ったものは、コープで買った見切り品の春巻きだ。つくられてからだいぶ時間が経ち、シナシナになったやつを、温め直して食ったら意外とうまかった。全く期待していなかった分「うまいなー」と声が出た。

でも、翌日に、同じように春巻きを買ってみたら、皮にアブラがしみ込みすぎている気がして、ちっともうまくなかった。

たぶん「期待してしまった」からだろうなーと思った。




出張のときにうまいものを食うぞ、と期待してしまうと、コンビニで容易に手に入り衛生的でシンプルかつおいしいご飯に文句をつけるタイプのいやな人間になってしまう。

いつもそうだ。

ぼくは実を言うと今一番おいしいと思って飲んでいる酒は金麦の75%オフのやつである。あれより濃いビールだともう味が強すぎてつらい。

それなのにぼくは、先日の名古屋出張で、名古屋駅新幹線口徒歩6分のビジネスホテル13階の自動販売機でスーパードライに浮気した。期待して飲んだそれは味が強く、ぼくはローソン特製銀座中村屋のカレーをほおばりビールの味をわからなくした。ちきしょう名古屋のうまいもの食いてえ、名古屋のうまいもの食いてえと連呼しながら、ビールとカレーを交互に食った。ベッドと壁のすきまにかろうじて張り出す程度の狭いテーブルの上を、コンビニの袋とパソコンとで占拠して、スマホで「言の葉の庭」を見ながらぼくは無心にカレーとビールを腹の中に納めていった。期待したのに、期待したのに、残念だ、残念だとつぶやきながら。





今思い返してみるとこの半年で食ったメシのうち、あのカレーはかなり上位に食い込んでいた。

「言の葉の庭」はすばらしい作品だった。

スーパードライもうまかった気がする。もう覚えていないのだけれど。

期待していない場所にあるものが、振り返ってみたときに、一番輝いている、ということは、ある。

今この瞬間のぼくが、あとから振り返ったときに、もっとも輝いている、ということは、あるだろうか。