人体内には血液が必要だ。全身に張り巡らせた血管の中に、機能に満ちあふれた液体を流し込んで、上水道的に栄養や酸素を行き渡らせ、下水道的に老廃物や二酸化炭素を回収している。
とんでもなく合理的なシステムだ。血液に対する依存が少々強すぎるようにも思うが。
この血液、単なる液体ではないというのは世の多くの人がとっくにご存じであろう。水を流すのとはわけが違う。
ここで突然だが漬物のはなしをする。
いまどき自分ちで漬物を漬けている人がどれだけいるのか知らないが(冷蔵庫で浅漬けくらいは作る人もいるかなあ)、漬物の作り方というか発想はいたってシンプルで、
・野菜などから水分を奪う
・ついでに塩味を加える
ことで味わいを「濃縮」し、「保存」が利くようにしている。ここで用いられている物理法則は「浸透圧と水の移動」だ。
野菜の表面に塩をふる。すると、野菜の細胞表面に「濃い塩水」が付着する(※注意:野菜も細胞からできているのだ!)。
野菜の細胞内には「塩分がほとんどない、水分」が含まれている。
野菜の細胞膜・細胞壁を境目として、外側に濃い塩水、内側にうっすーい塩水がある状態になる。
すると、浸透圧の低い方から高い方へ……。
塩気のうすい方の水が、塩気の濃い方にむかって移動するのである。細胞の中に含まれていた水分が外に出て行く。
すると野菜の細胞が水気を失ってシワッシワになる。結果的に濃縮がかかる、というわけである。
この「野菜に塩ふったら漬物になる」というのはそのまま人体にもあてはまる。変な話だが、血管の内外で浸透圧に差があると、水分が移動してしまうのだ!
たとえば毛細血管は各種の細胞と接している。このとき、細胞の中身の「塩気の濃さ」と、血管内の「塩気の濃さ」に差があれば、漬物と同じように水分が移動する。
血液がうっすーい真水に近い状態だと細胞の中にどんどん水が移動していってしまう。
逆に血液が濃いぃ塩水だと、細胞から水気がすいとられる。
もっとも血液の場合には、濃さを決めているのは「お塩」だけではない。さまざまな物質が「濃さ」に関与する。老廃物も含めてね。そして、内容物の濃さによって血管内の水分量も、ひいては人体のあちこちにある細胞内の水分量も変わる。となると、人体を漬物にしないために、あるいは水饅頭にしないために、血液の濃度を調整する臓器が絶対に必要なのだが、それがみなさんご存じの、腎臓なのであった。