2019年12月24日火曜日

病理の話(398) フクロの話

胆のう。

正確には「胆嚢」と書く。というかぼくは胆嚢としか書かない。けれども新聞とか雑誌では胆のうというように漢字の後半部分が開かれている。

胆嚢の「嚢」は、ふくろという意味だ。

ためしに「ふくろ」を漢字変換してみたらちゃんとこのように並んだ。

ふくろ
復路
福路
吹路
👝

最後のはポーチだが、pouchというのも袋という意味だから合っている。



体の中にはどれくらいフクロがあるか?



胃袋というのが一番有名だ。ただし、胃は入口と出口が開いている。だからフクロとしては不完全だ。一時的に食べ物を留めておくための仕組みだからこのほうがよいのだろう。

胃の入口と出口は筋肉で締められていて、食べ物が流れるタイミングでうまいこと引き締まる。変なタイミングで逆流しないように。消化する前に後ろに流れていかないように。

たとえば、胃の入口の部分を縛っている筋肉の一部は、横隔膜と連続している。腹圧を高めると横隔膜が上に押しやられ、このときに胃の入り口を強く引っ張って、ギュッと縛る。縛られていれば逆流が起こりにくい。

もし、この仕組みがなかったら、ご飯を食べて1時間以内に大声を出したり腹に力を入れたりしたら食べ物をもどしてしまうことになるだろう。なんともまあ見事なメカニズムである。




さて胃袋はともかく、他にもフクロがある。

たとえば冒頭に述べた胆嚢。形としては、サンタさんの抱えているフクロに似ている。くびれて、中身の量によってだるーんとたるんだり、パンパンに詰まったりする。

肝臓で作った胆汁(たんじゅう)を、十二指腸に流し込む前にいったん置いておく倉庫の役割をしている。入口と出口はどちらも「胆嚢管」と呼ばれる管だ。

肝臓という工場と、十二指腸乳頭部という市場の入口をつなぐ輸送路として、胆管という太めのパイプがある。この太いパイプを通って胆汁がまっすぐすすんでしまうと、つまり、「肝臓で胆汁を作った先から十二指腸に流し込んでしまうと」、実は都合がよくない。なにせ、胆汁というのは、食べ物が十二指腸を通過しているとき必要なのであって、それ以外の時間は別にそこまで大量に流れていなくてもよい。

胆汁は消化酵素の一種であるが、思った以上に機能が多く、また胆汁の「部品」もけっこう重要なものが多いので、あまりダダ漏れにはしたくないやつなのである。だから、肝臓という工場から十二指腸という出荷先にまっすぐ運ぶのではなく、途中でサンタブクロである胆嚢に一時的にためておく。倉庫を用意しておく。そして、必要なタイミングでこのフクロをぎゅっと絞り込むことで、食べ物が通過するタイミングで胆汁を集中的に投下するのだ。

いやー人体すげぇな。




ほかにもフクロがあるぞ。

まず精嚢(せいのう)。

体外からは見えない。膀胱の下、前立腺のうらについている。

精巣(キンタマ)で作った精子をそのまま尿道からダダ漏れさせたらだめだ、ということはなんとなくおわかりだろう。必要なときにぎゅっと、一気に絞り出す必要がある。

けれどもキンタマというのは精子の工場であって、倉庫ではなのだ(勘違いしている人もいるが)。だからキンタマ工場から精子を直接尿道に送り込む前に、体の外からは見えないマニアックな部分にあるフクロに精子を溜めておく。

こうやって書くと胆嚢とそっくりだよね。




まだあるぞ。膀胱。

ただし膀胱は胃と近い。入口(尿管)と、出口(尿道)を縛ってとめてあるだけのふくらみだ。尿ブクロ。




こうやってみてみると、臓器に対する漢字はきちんと狙って付けているのだなーということがわかる。

胃、膀胱: 入口と出口がある → 厳密にはフクロじゃない → 「嚢」がつかない

胆嚢、精嚢: 入口と出口が共通 → フクロだ → 「嚢」がつく




解剖学者って偉いな!