2019年12月16日月曜日

病理の話(395) 脳神経の2つの役割

こないだから読んでいる本、『タコの心身問題』 https://www.msz.co.jp/book/detail/08757.html に書かれていて、おもしろかったこと。

ぼくらはみんな脳を持っている。

脳のはたらきと言えばなにか?

思春期真っ盛りのこじらせた大学院生とかでない限り、たいていの人は、以下のような答え方をするだろう。

「考えること!」

あるいは、こう答える人もいるかもしれない。

「情報を処理する!」

さらには、こうやって考える人もいるだろう。

「手足を動かしたりする!」

これらは全部正解である。脳は中央制御室であり、心と体のコントロールセンターだ。そして、どの答え方をしてもまったくかまわないのだが、よくよく考えると、これらの答えは意味が微妙に異なっている。

考えることと、情報を処理することは、ちょっと重なっているかもしれない。似ていると思う。

しかし、考えることと、手足を動かすことは、必ずしも同じことを言っていない。おわかりだろうか?




脳神経にはおおきくわけて2つの役割があるというのだ。ぼくは上記の本を読むまでそんなことを考えたコトがなかった、衝撃だった。

「感覚神経から得た刺激に対して、運動神経で応答するような、感覚→運動をつかさどるしくみ」

と、

「歩くときに手足や体幹や心臓などを協調させて、多くの細胞がいっせいに働けるように音頭を取るしくみ」

がある。二つ目のほうが盲点だ。




7人乗りのボートをこぐときに、すべてのこぎ手がタイミングをあわせてせーの、せーのとこぐように、複数の細胞や器官が何かひとつの目的に向けて協調する。この部分はとても大事なのだということを完全に失念していた。

感覚神経によって何かを感じ、それに応答するために運動神経で指令を出すという、体外に対して体内を反応させるメカニズムばかりイメージしていたけれども、体内のあちこちにちらばったさまざまなメカニズムを統合し、あたかもオーケストラで指揮者が指揮棒をふるように、あるいはサッカーで監督が決めた戦術にあわせてフォワードとミッドフィールダーとディフェンダーがそれぞれ動き出すように、呼吸を合わせることもまた脳なのだ。

ハァー言われてみりゃまったくその通りだ。

ネットワークにつながったセンサーを体の境界部分に配置して、外部刺激と反応し続けるだけならそれは知性ってより反射だ。

歩くときに右手と左足が同時に前に出て、体を自然にねじらせて重心のバランスをとる、みたいな複雑な運動をするのも、脳の立派な役割だ。いやー気づかなかったな。



タコの心身問題に限らず、最近読んでいる本には、脳が何をしているのかがけっこう細かく書かれていて、今まで雑に脳のことを考えてきたぼくにとっては学びが大きい。

『脳だけが旅をする』なんていうブログを書いておいてあれだけれど、ぼくは旅に出る脳のことなんてこれっぽっちもわかっていないのだ。まるで思春期を少し通り過ぎた子どもをもつ親の気分である。