2022年2月15日火曜日

時間不器用

ぽんと時間が空いたのでブログを書いている。これを書いているのは釧路出張の日だ。いつもなら札幌の北にある「丘珠空港」から8時のフライト。しかし、2月はなぜか朝イチの便が欠航、というか就航自体がないので、次便の10時半を待たなければいけない。こういう「浮いた2時間半」が心をざわつかせる。どうしよう、この時間になにをしたらいいのだろう。


まずはいつも通りに出勤をしてみた。メールチェックをして返信する。4月から当院に来てくれる若い病理医の就職にかんする事務連絡が来ていて、当院の事務職員にメールを転送する。日本デジタルパソロジー研究会のホームページの改修が滞りなく進んでいることを確認し、自分のスマホでもホームページを見に行ってみる。しかし今日はメールがあまり来ていない、なぜなら出張日だから、そこに引っかからないように多くの仕事を事前に終わらせておいたからである。新規の案件しかメールは来ない。


どうしようかなと少し考えて、3月上旬に開催される胃癌学会の発表用パワポに音声を吹き込みMP4ファイルを作ることにした。ウェブで学会に参加する場合、ネットが不調でZoomがぶつぶつ切れたりすると学会の進行が滞るから、事前に発表内容を動画にして事務局のウェブサイトに登録する。学会は、集まったMP4ファイルを会場で流すことで、ネット環境を気にせずに多くの発表を滞りなく終わらせることができる。当日にぼくがやることは、


自分が発表している動画を自分で眺めて、


自分がしゃべり終わったあとに視聴者からやってくる質疑応答にZoomで応える、ここまでがお仕事。質疑応答のときにZoomの接続が切れたらどうするんだろうと思わなくもないが、ま、コアの発表の部分さえきちんとしていれば学会としてはOKなのだろう。でも本来学会というのは質疑応答の部分にもうまみがあるのだけれど。



こうして自分の発表動画を自分で眺める機会がつとに増えた。TikTokを使っている若者ならば誰もが感じていることであろうが、ぼくもYouTube LIVEや学会の事前登録などで、いやでも自分のしゃべる様子を目にする。その結果、昔の自分よりはしゃべりに抑揚がつけられるようになったし、滑舌も改善はできた、つまりはプレゼンがうまくなった。でも、プロのしゃべり手のような、根本的に人を惹き付けるようなしゃべりにはならない。

「論理をもった指導者」がついているわけではないので上達が頭打ちになるのも当然だ。こういうことはいっぱいある、と思う。

自分を振り返る機会ばかりが増えていく。しかし、往々にして、成長に必要なのは、「自分で自分を振り返ること」だけではなく、「他者から何気なく振り返られること」であったりもする。「Zoomのときみんながずっとカメラ目線で正面向いてるのキモくない?」と言われたからハッとするのだ、それがなければ、ぼくは今でもZoomでカメラや自他の顔をずっと見ながらしゃべっていただろう。まっすぐ目線を合わせ続けることが可能なZoomは非現実感が半端ない。テレビのアナウンサーとしゃべっているような気分になる。リアルで出会っていればそんなに長い間見つめ合うことはない……付き合いたてのカップルを除けば。


ぽんと空いた時間にヘッドセットを装着し、パワポのスライドを送りながら8分間の発表を吹き込んでいく。最初はうまくまとまらなかった、15分かかってしまった。現実の学会であったら時間オーバーで大目玉を食らうところだ、でもまあわかってはいた。Web用に作り込んだ資料は時間の調節が難しいから、こうしてこまめにリハーサルをして時間を絞り込んでいかなければいけない。実際にしゃべってみて、「ここでは同じことをしゃべることになるなあ」と重複が感じられた部分を思い切ってばっさりカットする。プレゼンに描き込んだ文字のうち、発表していた自分が目をやらなかった部分、読むひまがなかった部分もばさばさカット。なんなら結論の部分も一部は読まないことにした。4度目の録音で、7分58秒のパワポ動画が完成。これを数分かけてMP4ファイルに変換し、ファイル名を「演題名_名前」に変えて、学会のホームページにアップロードする。


ここまでやってもまだ1時間ほど余裕があるので困ってしまった。ひとまずこうしてブログを書いて20分消費。書き終わったけれど残り40分。いよいよスタッフたちが出勤してきて、「あれ? 今日は出張じゃなかったでしたっけ?」と質問されるので「ええ、このあとの飛行機なんですよ」と返事しているうちに職場の予鈴がなる。学校みたいだなといつも思う。予鈴がなったあとに職場を後にするのは、授業をサボっているような気持ちになるからなかなかいい気分だ。少し早いけれど丘珠空港に向かってしまおう、空き時間では三中信宏先生の新刊を読めばいい。そうだ、空いた時間には本を読めばいいのだ。こんな簡単なことになぜ今朝は気づかなかったのだろうか? 血圧が低くて脳がポンコツだったからだろうか?