2022年10月5日水曜日

第七回文学フリマ札幌2022レポ

スマホを変えた、アカウントの引き継ぎがいろいろ楽になっていた。iPhone使いには「そんなの前からだよ」と思われるかもしれないが、Android使いにとっては「ここまでやってくれるんだー」と満足である。

アプリの自動ダウンロードやアカウント情報の自動引き継ぎまで(なんと有線で)一気にやってしまえたのがよかった。どんどん便利になる。そして不便だった昔のことを忘れていく。




10月2日(日)、札幌コンベンションセンターにて開催された文学フリマ札幌に参加した。出店者ではなく、客としてである。仕事の日程(プラス合間に行く美容室の予約)の都合で1時間しか会場に居られないから急がねばならない。とるものもとりあえずネコノス! と会場を見渡してブースを探すと、見慣れた浅生鴨さん(と、なぜかダイヤモンド社の編集者である今野さん)がすぐに見つかった。しかしすでに客が何人か並んで会話に興じている。ならば急ぐ必要はあるまい。場所はわかった、ほかのブースを先に見よう、歩き回ることにする。


すぐに声をかけられる。「もう帰るところなんです」とおっしゃるその顔に見覚えがあるなと思ったら昔から相互フォローで本の話題によく反応してくださるスズキセイラさんであった。直前にリプライをもらっていたのでブースに行く手間がはぶけてよかった。東京歌壇、毎日歌壇、日経歌壇に掲載された(それぞれの選者は東直子、加藤治郎、穂村弘というそうそうたる面々)短歌をまとめたホチキス本を手渡される。おいくらですかと聞いたらこれはタダなのだという。そういうやり方もあるのか、と文フリから先制ジャブをもらった気分である。本をたくさん入れたエコバッグを片手にスズキさんは去っていった。エコバッグならぼくも持ってきている。大丈夫、はじめての文フリだが作法はわかるぞ。


昔、「本の雑誌」に紹介されていた風変わりな名前の版元、「代わりに読む人」を見つける。そういう名前の会社、2019年創業。ここから出た『うろん紀行』という本がたいへんよいエッセイで、今も本棚のいい位置に納まっている。きっとほかの本も良いのだろうと、『百年の孤独を代わりに読む』や『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する』などを購入。売り子は友田とんさんと言い、版元代表本人であった。サインをしてくださる。万年筆で丁寧に書いて頂くのがいい。レーベルのツイッターアカウントはすでにフォローしているので、友田とんさんのアカウントを探してフォローする。


出身大学である北海道大学の文芸部が出している本を2冊買う。さらに同じテーブルには北大推理小説研究会がいて、そちらの本も1冊買う。北大が何か出しているなら買いたいと思っていた。文芸サークルの「傑作選」はこれまで読んだことがないが、今は読みたい気持ちが破裂しそうである。大学生のときは同学年の書いたものを読みたいと思っていただろうか? それぞれのツイッターアカウントを見つけてフォローする。


さらにうろうろすると『北18条文学短編選集 NIKU-CHA』なるものを売っているあやしいおじさんのブースにたどり着く。売り子と顔が違いすぎる「とにかく明るい安村」似の中年男性の顔写真が宣材として用いられていて逆効果だと思うが実際こうして目に留まっているので順効果(?)である。昔よく行った北大そばのラーメン屋「ラーメン大将」の文学がありますよと言われて、えっ、なるほど、それは読みたいなと思う。じつにローカルすぎる。短編選集の表紙に書かれているNIKU-CHA、これ大将の肉チャーハンのことですよね、と聞いたらもちろんそうだと言う。わかりみが深い。文庫に既刊がまとめて入っているとのことだったので購入。ツイッターアカウントを見つけてフォローする。ツイッターに「写真の坊主の男性は専属モデルであり作者本人ではありません」と書かれており呆然とする。


ところで会場に来る直前にツイッターでハッシュタグ「#文フリ札幌」で検索し、いくつかのツイートを見ておいた。メモまではしなかったのだが、表紙の色合いが頭に残っていたものがあり、歩いていて見事に目に留まった。エッセイを1冊購入。お金を払うときに「ひだりききクラブをご存じなんですか?」と言われて、すみません、知らないです、さっきハッシュタグで見かけたんですと答えたら「わあ、ツイッターやっておいてよかった」と喜ばれる。こちらこそツイッターやっていたおかげで喜ばれてよかった。そのひだりききクラブというのは何なんですかとたずねると、自由律俳句の交換日記をやってるユニットですとのことで、はーすごいな、じゃあ俳句のほうも買わないと失礼だと思って自由律俳句の本も購入。エッセイのほうは東京の喫茶店が題材で……と言われて、そうか、文フリ「札幌」だけど道外から人が来ているんだと今さらながらに心で理解する。浅生鴨さんも東京から来ているのだから当たり前なのだが、鴨さんはもともと移動や行動のしかたがおかしいので一般に当てはめてはならない。


ネコノス(浅生鴨さんのレーベル)に移動して、挨拶をする。初老くらいの方が親しげに鴨さんと話をしている横で待っていると、あいさつを交わす前に鴨さんが、「ヤンデルさんはマメツカさんのことを知っておいていいと思うんだよな」と言う。ヨコにいた今野さんに「わあ!いつの間にいらしていたんですか!」と驚かれる。今話をしていらっしゃるこの方がマメツカさんとおっしゃるのかと思うとそうではなかったらしく、鴨さんと一緒に「あそこにいますよ」と遠くを指さす。よく見えなかったがそちらにマメツカさんがいる。探すことにする。


ところがマメツカさんのブースが見つからない。まあそのうち見つかるだろうと思って会場のうろつきを再開。『基礎研究っておもしろい!生物編』を購入。生物編以外に何があるのかと思うと生物編だけで第1集~第3集まで出ていてほかはないのだ。おもしれーと思い3冊まとめて購入。第3集が一番分厚い。こういうのって最初の勢いが一番強いんじゃないんだな。おもしれーと思いながらエコバッグに入れる。パンパンになってきた。ツイッターアカウントを見つけてフォロー。


1000円札をいっぱい持ってきたつもりがぜんぜん足りない。どうしよう。ネコノスに戻って話をしたら両替してもらえた。ひどいはなしだ、皆さんは絶対にまねしないでください。ごめんね。こんなに買うと思ってなかったの(この時点で16000円くらい使っている)。今度から30枚は持ってくるね。おわびの気持ちもあり何か本を買おうと思ったのだが、ネコノスの本はほぼすべて持っている、しかし本というのは何冊あってもいいものだ。知らないうちにいなくなったりするからだ。『すべては一度きり』と、『相談の森』と、じつは持っていなかった『寅ちゃんはなに考えてるの?』(革製本)を購入。これらを選んだ理由は単に、一番うちにある冊数が少ないからである。スマホのSuicaでお金を払いながらネコノスのブースに展開されている本たちを眺めていると、鴨さんが最近出したコピー製本的な作りの小冊子「かもがも」が、なんとも文学フリマの風景にマッチしていて感心した。文学フリマのような場を長年見てきたからこそ、このような作品を世に出せるということだ。


両替してもらって(すみませんまねしないでください)、気が大きくなって(調子にのらないでください)、さらに本を買いに歩き回る。背の高いおじさんがチラシをぼくに向かってヌッと差し出したので、ヌッと受け取るかわりにスッとブースに一歩近づく。これは何の本ですか? アパルトヘイトを題材にした小説です。エッまじで。タイトルをみると『プロテアの咲く大地』。しびれる。即決で購入した。この方はほかにもボスニアを題材にした小説など(ほかにもおっしゃっていたが忘れた)いっぱい書かれているらしい。ウッ、文学フリマっぽくなってきたなあと興奮する。購入後に巻末を見るとガチもんの政治学研究者でいらして、研究のご専門は韓国あたりのようだが国際政治にかんする小説をたくさん書かれているらしい。ツイッターアカウントを見つけてフォロー。


釧路からいらした方のエッセイを購入。これもたしか直前にツイッターのハッシュタグで表紙を見かけていた。タイトルまでは覚えていなかったが表紙の青が印象的だったので歩いていて引き寄せられた。『雪から霧へ』というタイトル。売り子をされているのは作者ご本人だろう(たいていそうだと思うのだが……会場ではけっこうお手伝い売り子さんもいるように思えたので念のため「だろう」に留める)に聞くと、いろんな文学賞に応募されており、かなりいいところの最終選考にも残るものを書かれているのだという。プロとアマの境界はすでにない。ツイッターアカウントを見つけてフォロー。


A4を二つ折りにしてホチキスで留め、その上にビニールをかけた本を売っている方のブースで立ち止まる。『お隣のインフルエンサー』という名前の冊子を1冊購入しようとすると100円ですと言われる。短編小説ならばいくつか買って読むのがよかろうと、周りにあった3冊もまとめて手に取っても合計700円。ツイッターアカウントを見つけてフォロー。


『調べ 第四号 二〇二二年秋』を購入。和紙のようなテクスチャの表紙に赤い糸が貼り付けてあって、おそらく製本をご自身でやられているのだろうとわかる。店にいた中年の女性に思わず「いい表紙ですね」と声をかけるととてもうれしそうにされる。四名による合作で中身は随筆や詩、そして紙を用いたある種の芸術作品。発行者である「残党舎」を検索しても、過去の文フリの出展記録しか出てこない。ツイッターアカウントもない。「不便だった昔のこと」を急速に思う。そして、不便という言葉の雑さに気づいて陶然となる。これで何が悪いのだろうかと思う。



そろそろエコバッグが限界というところで、さきほど鴨さんと談笑していた初老の男性がひとりでブースに立っているのを見つける。ああ、ここだったのか、と近寄っていき、マメツカさんの御本はこちらですか、と話しかけていろいろと教えていただく。豆塚エリさんという方は本日も会場にいらっしゃっているのだが、ときおり会場を離れて休憩する必要があるようで、そのタイミングではお目にかかれなかった。ぼくの残り時間ももうないから今日は会えないだろうと思いつつ、文学フリマなのだから文学を読ませてもらえばいいのでさほど問題ないとも感じる。さっそく『しにたい気持ちが消えるまで』というISBNのついているきれいな本を購入。この本は何度かツイッターで目にしており覚えていた。帯に荻上チキさんが言葉を寄せている。ところで、男性は何者なのかと思うと、豆塚エリさんといっしょに版元をやって、豆塚さんの詩集を発行してきた方なのである。あとで検索すると「大分の紅茶屋さん」なのだそうだ。そんな小説みたいな話が本当にあるのかとびっくりしてしまった。詩集『あまざらしの庭園』と、異様にきれいな星空の写真に詩がついた『誰のもとにも星は降るから』を購入。男性は「豆塚はツイッターをやっておりますので、よかったら感想をつぶやいてやってください』と言った。もちろんですと答えてその場でツイッターアカウントをフォロー。



大量の本を車に積み込んで次の予定である美容室に向かう。友田とんさんの『百年の孤独を代わりに読む』を美容室にもちこんで、カットの間中よみふける。職場に移動してウェブ会議をはじめる。日曜日に会議なんて入れるのが悪い。会議中、今野さんから「札幌のうまい店はないか」とツイッターDMが入る。会議に出ているふりをしながら、肘の下の振動が画面に映らないように気を配りつつ駅近くの店を3軒ほど紹介する。早く本の中に入りたいなと思う。便利でしょうがなく、昔の不便さを忘れて、昔からある惑溺に心を持っていかれて気もそぞろとなる。それぞれのブースで写真を撮っておけばよかったな、と、新しいスマホをチラ見しながら今日のことを思い出す。会議はまだ終わっていないのだがブログを書き始める。会議が終わる前にブログを書き終えて送信予約のボタンを押す。