2023年4月6日木曜日

アマチュア推薦文

推しについての文章を、だいたい600字から800字くらいを目安に書いてくれと頼まれた。いま3000字ちょっとになっている。これをそのまま「愛情があふれて3000字になってしまいました、ごめんねテヘペロ」と提出してしまうと、いかにも近年のイキリnoteムーブメントっぽくて、いささか恥ずかしい。そもそも、「文字数が多ければ多いほど情熱が深い」というのは嘘だと思う。仮にももの書きのプロならば、素人が3000字、5000字を費やさなければ語れない情熱を、800字に濃縮できてナンボであろう。連ツイは悪! 俳人は神!


そしてぼくはべつにもの書きのプロではないので3000字ちょっとの推薦文をそのまま送る。しょうがない。そういう残念さも含めてご依頼いただいているはずなのだ。掲載は誌面ではなくウェブ上だから長くてもなんとかなる。長文になってしまったことでウェブの集客力が落ち、結果として推しマンガの売り上げがあまり伸びなかったとしたらそれは責任を取らなければいけないが、おそらくこのマンガの場合、溢れる思いをせき止めずに語る私の文章を見てピンと来た「同類」が、「なるほどなるほど いい大人を感想失禁させるタイプのマンガか。それは買い甲斐がある……」と判断してくれることは間違いない。だから大丈夫。そういえば、推薦文の一部を抜粋して帯や店頭資料にも使わせてくれという依頼も同時に来ていたが、うん、抜粋しまくれるから大丈夫大丈夫。


……などと勝手なことを考えている。


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『○○○○』がおもしろい。小細工なしで述べるが私はこのマンガがとにかく好きだ。シャドウと白のバランスからして大好物。センス抜群のセリフ回しが素晴らしいし描き文字のバランスも絶妙である。ストーリーの都合で動くキャラが一人も(一体も)いないことにぐっと来る。配置された悪人がいないが小癪な人間がいっぱいいるのも最高だ。暴力はなくても小さな裂創が耐えないことに情操を撫でられる。(ときどき)無重力環境で暮らす人類のヘアスタイル・衣服・アクセサリーの中立進化っぷりに納得する。絵画的ビープ音が脳にダイレクトに響き渡るくらいには○○○○の環世界に没入している。シャバいカレーが100点なところも、スペースコロニー内のエレベーターのアナウンスでコリオリ力の注意喚起をするところも、宇宙船内部の商店が船内備品の予備であるという仕組みも、「関西宙空」がおそらく関西宇宙空港の略称であろうことも、ジヒ港でアディさんのジャケ写について長広舌を奮うシヤが背負ったリュックがC44柄なのも、全部が満点、すみずみまで偏愛している。


蛇足だが、○○○○○○○○○には性癖をダイレクトに抉られる。


読んでこれほどよく唸るマンガも珍しい。うまいなあ。じわる。テクい。へぇとため息が出て、ほぅと背中を伸ばす。そして、ときどき猛烈に切なくなる。リンジンたちのCNNのリカレントな演算が意図せず産み出す幼弱な情動に、現実と物語の壁を越えて触れた……と感じた次の瞬間、斥力ではね返される。世界の核心に漸近まではできても接着することは決してできない距離感。ハードSFの良作にしか生み出せない贅沢な落ち着かなさが「切な良い」。自分ごとになんてさせてくれない、けれどものぞき見までなら許してくれる、アンビバレントな手招きに、自律神経がひやっとする瞬間がたまらない。規定航路をダミーに任せ、目的のために規律と全体を利用しながら微速前進するゆかいな旅路。可聴域を越えたところに響く愛の言葉。いい。


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だいたいこの5倍くらいある。削ってまとめようかな、と、1日置いた原稿を見直していたらさらに文章量が増えてしまった。どうしようもない。そういうものである。