これまで大きめのノートPC×1台と、出張用の軽いPC×1台を使い分けていた。でも最近のPCは大きさの違いイコールほぼ値段の違いくらいしかないので、2台分の仕事をサイズが小さくてハイスペックなPC1台にまとめることにして、外付けモニタとアームを購入し、職場では大きめの画面に接続、いざというときはPCだけ取り外して出張、という形式に変えることにしたのだ。
というかいまどきのデスクワークビジネスマンはたいていそうだろ、と言われたら返す言葉もないのだけれど、16年間ずっとPC2台体制だった「自分のしきたり」みたいなものを変えるのにけっこうな運動量を必要とした。慣性に抵抗するのが一番疲れる。
現在、1TBの外付けSSD内にほぼ満タンに入ったデータを整理して、4TBの外付けハードディスクにうつしているところ。あれこれ選びながらの作業なので、別に仕事をしながらかれこれ10時間くらいかかっている。まだまだかかるだろう。
16年前に築地で研修していたときのファイル。20年前に大学院で使った勉強記録。医学部生時代に病理の地方会に連れていってもらったときの資料なども見つかる。「部屋の整理をしていたらアルバムが出てきて手が止まるアレ」をやっている。
これを書いている翌々日くらいから「ロード日程」がはじまる。研究会や学会はだいたい以下のような順序で参加することになる。明日からZoom、名古屋、Zoom、Zoom、東京、東京、俱知安、Zoom、Zoom、網走、札幌(あっホームだ!)、東京、Zoom、Zoom。だいたいこれで3週間。ほとんどの場所で画像もりもりのパワポを使って話をする。PCのデータが重くなるわけだ。
ほんとうは、1枚絵で1時間しゃべれる人が一番強い。あるいはイラストも写真もなしに、ソラで、講談師か落語家のように15分でビシッと笑わせて泣かせて何かを持ち帰らせる人が一番偉い。
「でもそれを科学でやるのはむりでしょ?」
いや、どうやらそういうわけでもない。先日から読んでいる羊土社『ストーリーで惹きつける科学プレゼンテーション法』の中にはこんなやり方が紹介されていた。
Flash Talks:制限時間3分、スライド使用不可、小道具使用不可。
Three Minute Thesis:制限時間3分、スライド1枚、小道具使用不可。
Three Minute Wonder:制限時間3分、スライド1枚あるいは動画、小道具使用可能。
TameLab:制限時間3分、スライド使用不可、小道具使用可能。
Perfect Pitch:制限時間90秒、スライド1枚。
これらはいずれも名のある学会や大学で、若手研究者が短い時間に自分の研究内容を手短に、並み居る専門家たちに語って聞かせるセッションの名前だということだ。
うーん、こんな訓練を頻繁にやっていれば、そりゃあ欧米の科学者たちはプレゼンがうまくなるよなあ。鍛えられる。
なお、科学者がしゃべって科学者が聞く取り組みだけではない。科学者が一般の方々に、短くサイエンスを語って聞かせる場もあるらしい。Science ShowoffにBright Club、さらにはStand up Science。これらは一般向けのコミカルな科学トークの場なのだそうだ。
日本ではほとんど聞くことがない(か、やっているのかもしれないが大衆に知られるほどの知名度はない)。手前味噌だけどSNS医療のカタチのYouTubeでの10分講座みたいなのって大事だよね。でも、ぼくも含めて、日本の科学者はどうしても、パワポのプレゼン枚数を増やす傾向になりがちだ。
くり返すけれど、本当はもっと、一枚絵でぐっと語って聞かせるくらいがいいのだろう。それこそがコミュニケーションのスキルなのではないかと、ぼくも思う。でも……それでも……ぼくらはアニメの国に暮らしているから……無数の画像でパラパラやって「ほとんど動いているかのように」「まるで生きているかのように」、アニマをほとばしらせながらしゃべるやり方に、惹かれてしまうし、そんなことだから、引かれてしまうのだ。