今から書く内容がそのまま原稿に育っていくなんてことはまったくなくて、なんなら後日、本番の原稿「病理プレゼンテーション法」を書くときに、このブログ記事を参照することもおそらくない。
しかし、「今の段階で脳の中にあるものをただ出すとどうなるのか」、という仕事を自分の指に発注し、指から勝手に打ち出されていく文字をぼくの目が見ることで、その文章が自分にとって衝突する銃弾となるのか、それとも無風の温帯の空気なのか、そういうことを確認することは、やはりある種の下書きと言える。直接参照するわけではないが推敲はもうはじまっているのだと思う。
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こんにちは、病理医の市原です。さまざまな場所で病理診断を解説する機会をいただいております。
本日は「病理プレゼンテーション法」ということで、プレゼンテーションを上手に行う方法をプレゼンするという、若干メタなことをやらせていただきます。
さっそくですが本日のお話しの結論は、「1カメ、2カメ、3カメを順番に意識することが肝要」というものです。また、途中に語ることになる、ちょっと覚えておいていただきたいお役立ちティップスとしまして、「メイリオ時代に用いるべきフォントはUD、UD時代が来たら游ゴシックにチェンジする」といったものを申し上げる予定です。
では順番にお話しいたします。
まず、プレゼンの序盤に「枕」を語るかどうか。その症例を語る上で必要な前提情報をシェアするかどうかという話についてです。病理解説においては、イントロの部分をねばっこく語っていると、あっという間に時間が足りなくなります。なのでやめたほうがいいです。病理解説はエンタメではありません。
「札幌の市原です。病理を解説いたします。」と自己紹介を4秒で述べた後、ただちに「本例の最終診断は○○です。」と、いきなり診断を述べることを強くおすすめします。病理解説において、あたかも探偵がじわじわと聴衆をじらしつつ犯人を追い詰めるように、所見を積み上げながら最後に診断を述べる方がいらっしゃいますが、あれはおすすめできません。よっぽどのストーリーテラーでないかぎり、聞いている人たちの集中は削がれ、「まるで試されているかのようだな……」と不快感すら持たれてしまいます。
まずは「結論としての診断」を述べましょう。その前に無駄に時間を使わないことです。消化管であれば、最初に診断名、取扱い規約事項などをコンパクトにまとめた画像を一枚提示すべきです。
ただし、ここで大事なことは、「結論としての診断」はなるべく早く述べるのですけれども、「そのプレゼンのキモが診断名であってはならない」ということです。序盤に結論を述べる、と言いつつ、じつは一番盛り上がるのはそこではないのです。犯人推理と病理解説とは違う。
聴衆の多くは、病理解説に、さまざまな「理論」を求めます。また、提示される「仮説」に魅力があるかどうかを吟味します。これはもう、無意識にもやられますし、意識的にもやられます。したがって、プレゼンのキモとは、その病理標本を見た病理医が、細胞と向き合って何を考え、どう考察して何を推論したのか、それが臨床医たちの見立てとどう合致したのか、どこか合わないところはあるのかという点にあります。究極的には、「病理医だけが解き明かせる何か」を聞く人たちに与えることができるかどうかがキモです。論説と仮説のわかりやすさと奥深さを同時に達成すること。これらに比べれば、診断名というのははっきりいって、「秒でさっさと語り終えておくべき前提」であり、つまりは「診断名こそが枕」なのです。ここを間違えてはいけません。
大事なことなのでくり返します。病理解説における「枕」は「診断名」です。
では診断を述べたあと、どのように病理プレゼンを展開していくか。「もう答え(≒診断名)はわかっちゃったから、あとはZoomを切ってご飯の準備だ」などと聴衆に思われないことが必要です。ですから、枕からすかさず、聴衆の興味を「最後まで引っ張るための強力なプレゼン」が必要になります。それはなにかというと、Google mapです。ちがいます。フィールドマップです。見取り図を出すのです。
残り時間、それは10分かもしれないし4分かもしれませんが、とにかく短いとはいえ研究会や学会の貴重な時間を、聴衆はみな、一人の解説担当病理医のいうことを遮らずに聞かなければいけません。解説者が場を独占する状態となるわけです。その時間に、何がどれくらい語られるのか、ということを、2秒あればピンとくるくらいのわかりやすい図で一瞬で提示します。「今からこの標本のこれくらいの範囲を語りますよ」ということが、一瞥しただけでわかるくらいの図がここでは必要です。診断名を述べるときなんてのはプレゼンに凝る必要はありません。聴衆の脳はすべて診断名に持っていかれるからです。はっきりいって画面のど真ん中に一行ないし二三行で診断を書けばそれでいい。しかし、「見取り図」を出す段階では、プレゼンのデザインがかなり重要です。画像の色味、矢印の数、フォントの種類など、思いっきり吟味します。むしろ文章は要りません。読んでいる時間で1秒経ってしまうからです。それではだめです。見取り図の段階で何か意味のある文章を5秒以上読ませたら聴衆の20%は脱落すると思って下さい。デザインされた「図解」によって、霹靂的に解説の全貌を感じ取ってもらいます。言葉を書くならそれは決定的な単語、もしくはキャッチコピーのようなものだけです。
芸術家でもデザイナーでもコピーライターでもないのにそんなことはできない! とお怒りの方に申し上げます。ここで病理医が出すべきは、「解説をするプレパラートのルーペ像」です。複数枚を解説する予定であっても、一画面にいっぺんに並べてしまいましょう。ただしそのデザインについてはいろいろと勉強して、一瞥して見やすい配置をきちんと工夫してください。写真のサイズ自体は、多少小さくて見づらくてもいいです。「見取り図」ですから。それをこれから順番に拡大していくのです。俯瞰から細部に向かって拡大をあげていく、あたかも日常の病理診断で、弱拡大から強拡大に向かって順番に進んでいくときのように、これからあちこちを拡大していくのです。そのようなメッセージを2秒で届けるということです。
そして、ここで聴衆を2秒で引きつけたら、はじめて自己紹介をしましょう。あなたの言葉はここから届き始めます。「診断名」を言った時点ではあなたの言葉は届いていません。解説がはじまったなーと思われた瞬間から、あなたの声質とかリズムとかに注意がそれはじめます。したがって、「見取り図」を提示したら2秒後には、聴衆をぐっと引きつける自分の最高の声を出す必要があります。もう診断名について語っているので、声出しの助走は終わっています。ノドがつぶれる心配はありません。ろうろうと、堂々としゃべりましょう。では何を言うか。
「それでは順に解説します。Aパート、Bパート、Cパートを、順番に弱拡大・強拡大と説明し、免疫組織化学をまとめてご説明したのちに、最後に臨床画像との整合性を確認します。」
これです。だいたいこうです。「見取り図」にマーカーで順路を示すように、手短に、よく通る声で、いつもよりも少し高いくらいの声がいいと思います、「時間的な見取り図」を一気にしゃべってしまいましょう。ここまでで一回も噛まなければ、残りの8分、もしくは3分はあなたの劇場となります。
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このままいくらでも書けるがブログなのでいったんこれくらいにしておく。いろいろと思うところはある。ぼくって心根が軽薄なんだな、ということを、今日は思った。