2019年1月31日木曜日

病理の話(289) 検査って何なのか正面から考えてみた

「病院で検査したら、○○という病気だとわかったよ」

などというフレーズをよく目にする。

この「検査」とは、そもそもなんなんだ、というのを正面切って考えてみようと思う。




○○という病気……の、○○に何が入るかによって、必要な検査が変わるということを、まずは知っておきたい。



たとえば。

「○○=骨折」だったら?

骨折とはその名の通り骨が折れているわけで、これは、「折れている骨を目でみること」が「わかる」ということにつながる。

当たり前ですね。

ところが骨というのは肉の奥に潜んでいるから、直接見ることができない。

そりゃそうですよね。

そこで「検査」ですよ。

 直接見られないものを見るために。

画像検査をする。

CTとかMRIとかね。




次に。

「○○=肺炎」だったら?

肺炎とは肺の炎(ほのお)と書くけれど、肺が燃え上がっているわけではなく、肺に「炎症」が起きている。そしてこの炎症をみるのはいろんな意味で難しい。

まず、骨折と同じように、皮とか肉の向こう側に肺があるわけだから、直接外側から目で見ることができない。

そこで「検査」ですよ。

 直接見られないものを見るために。

画像検査をする。

CTとかね。

でもそれだけでは解決しないんだ。

肺に炎症が起こっている、というところまでは画像でわかるかもしれないんだけど、肺炎の場合は、「炎症の原因が何か」がとても気にかかる。

……まあ骨折でも原因は気にするんだけどそれはおいといて。

肺炎の場合、その原因が、

「細菌」

なのか、

「ウイルス」

なのか、

「カビ」

なのか、はたまた

「それ以外のできごと」

なのかによって、治療が全部違うのだ。これらを見極めるためには、画像検査ではなかなかうまくいかない。

 直接目では見えないし、CTでも見られないものを見るために。

別の「検査」が必要になる。

痰をシャーレに入れて菌の培養をしてみたり。

血液に出てくる「原因微生物の証拠」を探したり。

「細菌検査」とか、「血液検査」をしないといけなくなるのだ。




そして。

「○○=がん」だったら?

がんがどこに出たかによって、まず、検査の種類を変えなければいけない。胃の中にがんがあるなら、胃カメラで見に行くことができるだろう。でも、肝臓の中にがんがあったら、外からはどうやっても見ることができないから、CTとかMRIとか超音波などの画像検査を使うしかない。

直接見ても、画像を使って見ても、それが「カタマリ」であることはわかるけれど、

・どんなタイプの癌細胞か

・どれくらい細かくしみ込んでいるか

・どんな治療が効きそうか

は、なかなかわからない。

とにかく血液検査もする。手術に耐えられるかどうかを調べるために呼吸機能検査とか心臓の検査もする場合がある。

そして、

 直接目では見えないし、CTでも見られないし、血液でもわからない、病気の本質とか、広がり方を見るために。

「病理検査」が必要となるのだ。




検査っていうと、機械に血を入れたり、自分が機械のトンネルの中をくぐったりして、コンピュータがピコピコ何かを出力して、紙やモニタに出てきた結果を主治医がみて、考える、みたいなものを想像する。

でも、画像ったってその解釈は複雑だ。輪郭や内部性状から病気そのものを理解しようと思ったら、コツがいる。

血液検査の結果だって、(たとえば健康診断でもらう数字の羅列といっしょで)素人が見ても何が何やらわからない。

病理検査に至っては、医師であっても、何が書いてあるのかよくわからないほど複雑な結果が出てくる。




だから、「検査」がひとつ増えるたびに、その検査には「診断」を担当する医療者がいる。

検査結果は白黒はっきりしたわかりやすいデータばかりではない。

だから、データをもとに、考えて、あてはめて、患者の中で起こっているストーリーをまるで「優れた小説やマンガを読んだかのように」記述する人の手が必要になる。

そんな複雑な作業を、ぼくらは普通、「検査」とは言わない。

「診断」と言う。




画像診断。

血液生化学的診断。

生理学的診断。

そして、

病理診断。



「病院で検査したら、○○という病気だとわかったよ」

という一文の中には、「隠しフレーズ」がある。

「病院で検査したら、○○という病気だと診断されて、わかったよ」




あなたの検査の裏には、診断者がいるということを覚えておくとよいかもしれない。