先日の京都大学のプレスリリースで、「ネコがマタタビによってあんな感じにくにゃっくにゃになってしまう理由」が解説されていた。非常におもしろい仮説であった。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-01-21
ネコは進化の過程で、マタタビの中に含まれているネペタラクトールという物質に「幸せ」を感じる性質を獲得した。
幸せ~だけではなくて、おだやかでぼーっとしてしまう(鎮静効果)というのもある。
おまけに体をぐにゃっぐにゃと動かしたくなる。ネコの脳はそういう風にできている。
その結果……「マタタビのにおいがある場所」=「マタタビの上」で、「ぐにゃぐにゃと体をねじる」ことで、マタタビの有効成分が、ネペタラクトールが体にくっついて……
こいつがなんと、「蚊を寄せ付けない」んだそうだ。まーびっくりした。何ソレ。ぜんぜん話がずれたね。ネコがぐにゃる物質が、たまたま蚊よけにも効果があって、蚊よけを摂取すると蚊よけの上でぐにゃる、って。すげえ堂々巡りみたいだ。
ま、最初は、「マタタビでぐにゃるネコ」だけじゃなくて、「マタタビが効かないネコ」もいっぱいいたのだろう。たまたまマタタビでぐにゃる体質のネコがあるとき現れたのだ。ちょっとした(?)、変異で。
ところが、このちょっとした変異が、気の遠くなるような時間の中で、だんだん差につながっていく。
マタタビの有効成分にぐにゃぐにゃして、マタタビを体に塗りたくるタイプのネコは、ほかのネコに比べて、蚊に襲われにくい。
すると、マタタビにぐにゃぐにゃするタイプのネコは、マタタビに反応しないネコにくらべて、蚊が原因の感染症にかかりにくくなる。
マタタビが平気なほうは、蚊が原因の感染症によって、不幸にもたまに命を散らす。あるいは寿命を減らす。
マタタビが平気なネコは、長い時間の中で少しずつ駆逐されていき……
現在、多くのネコは、「マタタビぐにゃ族の末裔」になっている、という仮説、かな。
すごいな進化って。
これを読んでしばらく考えると、こんなことに気づく。
「ヒトはなぜ、マタタビでぐにゃぐにゃの戦法をとらずにここまで来たんだろうか……」。
いくつか説を(勝手に)考えるぞ。
そのいち。
ヒトは毛が少ない。ぐにゃったらマタタビの汁がくっつくだけじゃなくて、地面のせいでこまかな擦り傷や切り傷が肌に直接ついてしまう。すると、蚊はよけられるかもしれないが、地面にいる細菌をはじめとするほかの感染症にやられてしまうリスクが上がったのではないか。
そのに。
脳をでかくして社会性をもつことで生き残る戦略をとったヒトは、興奮・鎮静して心ココにあらずをやってしまうと、たぶん各種の生存戦略をとれなくなる。「頭がいいこと」を捨てるというのは、ヒトにとっての牙や爪を折る行為に等しい。わざわざメリットつぶしてはだめだ。
そのさん。
ヒトの手は器用なので、皮膚に「かゆみ」のセンサーをきちんと用意して、蚊がとまったら叩き殺すという手段をとれた。つまり、ぐにゃるまでもなかった。
そのよん。
脳と手先の器用さを活かして、服を作って着るという選択肢も選べた。うまいこと防御した。
こんなとこかな。ネコとは元々の強みが違うヒトにとって、マタタビぐにゃ戦法は有効ではなかったのだろう。
ところで……蚊が媒介する感染症のうち、マラリアに対しては、「鎌状赤血球症」という特殊な遺伝子変異をもちいて対応した人類が今も生き残っている(アフリカに多い)。
蚊に刺されてマラリア原虫が体内に入ってくることはしょうがないとあきらめて(!)、マラリアが体に侵入しても赤血球のほうでそれを受け入れないように変化してしまおうというなかなか思い切った作戦(?)だ。
進化っておもしろい。
人力で進化を導くのは無理だなと思う(神ならいけると信じるひともいる)。
神ならぬ人にとって、マタタビぐにゃ戦法がネコの遺伝子を後世に伝える役に立つ、とはなかなか創造……じゃなかった想像できない。
生命の持つ機能の、不思議な巡り合わせをひとつひとつ解きほぐしていく、現代の科学者たちの執念と想像力も、全く大したものだなあと思う。ていうかよく気づいたな、こんな複雑な仮説……。