病名を決め、病気の進行の度合いをおしはかる行為が「診断」だ。FFシリーズに「ライブラ」という魔法があり、モンスターにかけると名前や属性、HPなどの各種ステータス、弱点をあきらかにすることができる。あれがつまり「診断」であると考えてよいだろう。
診断はスキルを要する。診断の初心者は、「こう見えたらこう診断する」のようなパターン認識と呼ばれる作業で行うことが多い。知識と経験を積むごとに、なかなかそう一筋縄ではいかないということがわかってくるが、レベル上げの序盤から中盤、再びFFでたとえるとサンダラを覚えるくらいまでは、世にあるさまざまな病気のパターンを身につけるだけで毎日が飛ぶように過ぎ去っていく。
パターン認識による診断をFFでたとえるならば、たとえばこんなかんじだ。
「次元の狭間でエンカウントし、巨大なウシのような体つきをしており、頭には長くて太いツノが2本生えていて、戦闘中にメテオを放ってくるので、こいつはキングベヒーモスであり、HPは18000くらいあって、水属性に弱い。」
モンスターがどのような場面で登場するのかを考え、体つきが「人間に似ているのか、なんらかの動物や植物に似ているのか」を判断し、目に留まりやすい特徴であるツノなどをチェックして、その行動様式(例:どんな魔法を使うか)を考えることで、モンスターの名前をひとつに決めて、その体力や属性をさらに細かく判断していく。どんなパターンだからどれ、と考えていくのである。
病理診断もだいたいこのように行う。どの臓器に出てくる病気で、見た目がどのような細胞に似ているかを考え、細胞自体に何かわかりやすい特徴がないかを探し、周囲の環境にどのように影響しているかを考えれば、だいたいの病名は付くし、その性質などもわかってくる。
では、どういう診断が「難しい」とされるか?
まずはエンカウントする確率が異常に少ないモンスター……病気の診断が難しい。いわゆるレアなキャラということだ。あまり遭遇したことがなければそれだけ診断者の経験も低いので見極めが遅れる。あるいは知らないと見極められない。
ただ、「レアではあっても有名」ということはけっこうある。FFでたとえると、「しんりゅう」や「オメガ」はごく限られたシーンでしかエンカウントしないが、両者の存在を知らないFFVプレイヤーはおそらくいないだろう。出現する場面も有名だし、初見だとまず全滅するという凶悪さもあいまって、おそらく多くのプレイヤーの脳裏に焼き付いているはずである。二度目に遭遇するときにはまず忘れていないし、なんなら、「ここの宝箱を開けるとしんりゅうが出てくるから開けちゃだめ!」くらいの知識は何十年経っても残っているものである。
それよりも一段難しいのは、むしろ、「よく出るモンスターなんだけど、微妙にいつものやつと違う」場合だ。パターン認識で診断をしていると、パターンを外れるタイプ、例外、にだまされてしまう。
次元の狭間ではない場所、たとえば大森林あたりで、キングベヒーモスにそっくりなやつがいきなり出てきたらプレイヤーはとまどう。
メテオも使ってこないからてっきりキングベヒーモスとは違うんだろうな、あれ、これ普通のベヒーモスかな? と思って戦い始めると、殴っても殴っても倒すことができない。おかしいぞ、やけに体力がある、普通のベヒーモスならそろそろ倒せるはずなのに……と、最初出し惜しみした火力をそろそろ全開にしないとだめかなと思った次の瞬間に遅すぎるメテオが来て全滅。
「なんで大森林にキングベヒーモスが出るんだよ! ゲームバランス崩壊じゃないか」
FFだったらそういうことはない。モンスターの出る場所はきちんとプログラムされているからだ。しかし、現実に遭遇する病気はゲームとは違う。キングベヒーモスが大森林どころか風の神殿に出ることもあるし、アルテマウェポンの隣にゴブリンが立っていることもあるのだ。そういうことは「めったにない」のだが、「まったくないわけではない」ので油断ができない。
「レアな病気」というのにもさまざまな出方がありえる。パターン認識だけではいつか必ず痛い目に遭う。現実にもライブラがあれば……と思わないことはない。しかし、現実の病理診断は、ライブラ以上に評価する項目が多いので、あの程度じゃ役に立たないかもなあ、と思わなくもない。