2022年12月26日月曜日

病理の話(730) アンモニアのはなし

オナラがくさいのはアンモニアなどの物質が含まれているからだ。ではなんで腸の中でアンモニアが発生するのか? それは、腸内に存在する多数の細菌が、食べ物の中に含まれているタンパク質を分解するからである。


余計なことしやがって! ばいきんのせいでタンパク質が分解されてくさいものが出てくる! プンスカ! と怒る気持ちがあるかもしれないがむしろ逆である。腸内細菌のおかげでほどよくタンパク質が分解されて、人間がそれを吸収しやすくなるという意味もあるのだ。人間は自分の口でものを噛んで砕いて、胃液で溶かせばそれで十分吸収できるぜと調子に乗っているけれど、ほんとうは腸の中にいる無数の細菌が最後の仕上げをしてくれるから効率よく栄養吸収できているに過ぎない。インフラが当たり前になってしまって感謝しない現代人の悪いところである(?)。


だったら人間はもう少し進化して、細菌に頼らずとも、体内でタンパク質をもっとゴリゴリ分解すればよいではないか! なぜ細菌に頼るような進化でよしとしているのか! 神はもう少し考えて人間をつくればよかったのではないか! と怒る気持ちがあるかもしれないがむしろ逆である。アンモニアというのはけっこうな毒性物質で、血液の中に混じると意識を失うくらいやばい物質なのだ。腸の中は空気が肛門を介して外とつながっている。だから体内にタンパク質が吸収される前の段階で細菌がタンパク質を分解して、あらかじめアンモニアを出しておけば、それを血液に混ぜることなくオナラとして排出できるのだ。めちゃくちゃうまくできているではないか。外食すると洗い物をしなくて良い、くらいの感覚で、人体はタンパク質の分解という「ゴミの出るプロセス」を細菌に外注しているのである。神もちゃんと考えているのだ。


しかし……細菌がせっかく分解してくれたタンパク質およびそのゴミであるアンモニアであるが、結局は腸の粘膜からも体内に吸収されてしまう。そのアンモニアが血流に乗って全身に回ってしまうとコトだ。そこで、腸の血液は、すぐに心臓に戻すのではなくていったん肝臓を経由させる。


ふつう、手に向かった動脈血は、毛細血管を介して指先などに酸素を受け渡したあと、静脈を通ってまっすぐ心臓に帰ってくる。顔に向かった血液も、腎臓に向かった血液も、甲状腺に向かった血液も、すべてまっすぐ心臓に帰ってくる。しかし腸の血液だけは心臓に帰る前に肝臓に寄り道をする。この寄り道ルートのことを門脈(もんみゃく)と言う。体の中で、臓器から臓器へ移動する血流というのは2箇所しかない(肝臓の門脈と、下垂体の門脈)。なぜわざわざそんなことをするのか? 腸管で受け取ったアンモニアを肝臓で解毒するためだ。


腸で、どうしても必要なタンパク質の分解を行い、それで発生したアンモニアをがんばってオナラにして外に出しつつ、それでも血液に吸収してしまうアンモニアについては肝臓で解毒する。なんなら、アンモニアに含まれている窒素成分をもうちょっと再利用しようかなということで、尿素という物質に変換して全身に行き渡らせるというリサイクルまで行う。尿素はその名の通り、尿に混ぜて捨てるための物質……ではあるのだが、皆さんは保湿クリームで「尿素配合」というのを見たことがないだろうか? じつは尿素というのは水をめちゃくちゃ引き受けるはたらきがある、すなわち保水力があるので、人体のあちこちで「保水したい場所」に尿素を置いておくことで、効果的にその場所をうるおすことができるのだ。



……みたいな話を学生時代にちゃんと習っているのだけれど、ふだん復習しないので完全にうろおぼえになっていたので、こないだ本を読んで勉強しなおした。なので今日の話はわりと思い出し立ての内容です。どっか間違ってたらごめんなさい、ま、ざっくりでいいと思うけど(医療系学生はちゃんと覚えないとだめ)。