2022年12月13日火曜日

なぜ美容室に限って

冬の出張のはなし。

先日、尾身茂先生と山本健人(けいゆう)先生との座談会収録場所が東京だったので、札幌に住むぼくは空路を確保する必要があった。飛行機は楽でいいから好きだ。ただ今回は、収録が12月2日であるということに注意しなければいけない。

なぜなら、この時期は天候トラブルによる欠航がしばしばあるからだ。

積雪による滑走路の閉鎖+除雪、あるいは吹雪による視界不良。12月から3月いっぱいくらいまでの間、これらは本当に、移動の悩みのタネなのである。


12月初旬の札幌近郊にはまだ雪は少ない。道の脇にちょろっと積もる程度の量しか降っていないことも多い。いったん降って積もっても、「クリスマスまでに全部解ける」という年もある。気温は零度前後でなまぬるい感じ。本格的な冬にはまだしばらく時間がある。

だったら空路も問題ないかというと、そうではないのだ。この時期に降る雪は、水気を含んでびしゃびしゃで、かさばる。だから量が少なくても除雪にけっこう苦労する。

空港で除雪をするというのは一大作業だ。滑走路を閉鎖してかなりの人員を注ぎ込まないといけない。積雪が多ければ大変になるのはもちろんのこと、少ないから大丈夫というものでもない。

12月は、日常生活の上では「まだ冬の序の口」なのだが、空路を確保しようと思うとあなどれない。冬の出張は危険だ。



この地に住む人間としては当然、出張の1週間くらい前から天候を気にするようにしている。しかし雪というのは手強くて、雨ほど予報がキレ味良く当たらない。夜中に「天気予報外の雪」が軽~く5センチくらい積もることがままある。たったその程度の雪なら道民は気にしない……と言いたいところだが、人が気にしなくても飛行機は気にする。朝一の便が着陸するためには除雪が必要だ。いったん滑走路を閉鎖して5センチの雪をどけてから、全国の空港に「はい飛んできてよいですよ」と通知するわけで、そうなるとその日の飛行機の発着は以後キレイに全部遅れる。「天気予報で言っていなかった雪」のせいで、空港に着いてから遅延を知る瞬間はやるせない。


飛行機のダイヤの乱れに遭遇する頻度は……プチ遅延も含めれば3割といったところだろうか。千歳・羽田はドル箱路線なので、そう簡単には欠航しない……とかつては言われていたけれども、最近はどうやらそれもあやしい。感染症禍によるダイヤの見直しなどがあるせいか、以前よりももう少し気軽に欠航しているような印象もある。


ところで、ぼくが住む札幌はいわゆる「日本海側」の気候だ。これに対して新千歳空港があるのは「太平洋側」なので、札幌で天気が悪くても新千歳は晴れている、みたいなズレがけっこうある。日本屈指の巨大空港を建てるにあたって、天候調査は十分になされたので、新千歳空港は立地的にもともと積雪が多くない。でも、降るときは降る。その動向が札幌とは違うので、朝起きて、あーいい天気だなと思って空港に向かってみたらめったにない暴風雪で飛行機が全然うごいていない、みたいなこともある。こういうときはほんとにこたえる。空港で呆然としながら出張先の各方面に次々と電話する、みたいなことになってしまう。



と、長い長い前置きの末に何が言いたかったのかというと、つまりは、夜に尾身先生との座談会がありますと言われて、羽田に夕方着くような飛行機を取るなんてありえない、ということである。12月は怖いのだ。朝から順繰りに飛行機の遅延が連鎖していく恐怖をぼくはよく知っている。都内某所に17時半に集合、それでもぼくは午前中に羽田に着いていたくて、かなり早い飛行機を目指して家を早朝に飛び出した。

結果的に、飛行機はぜんぜん遅れなかった。定刻であった。無事にお昼には羽田空港着。これだと今度は余裕ありすぎる。5時間半のインターバル、しかし「着くか着かないか気にしているこれまでの毎日」を思えば、もう着いてしまっている今なんてありがたい以外の感情はなかった。ぼくは浅草に向かって舞台を見た。じつにいい舞台で満足した。


尾身先生たちとの座談会を終え、一泊して、翌朝は都内で新聞社の取材を受けた。2時間ほどドトールで話をしたあとに空港に移動。札幌についたらその足で美容室に向かって、カットとカラーをしてもらう予定だった。トラブルなく羽田について、おみやげを買い、ゲートをくぐって搭乗。席に着く。ほかの客もみな座った。さあ離陸……の前に疲れたぼくは一眠りしてしまったのだが、寝ている最中に何か違和感を覚えてふと目を覚ますと、飛行機はまだ羽田の駐機場にとまっていた。あれ?

どうやら新千歳空港でみぞれが降って、滑走路を一時閉鎖して除雪をしはじめたらしい。乗客達が飛行機内に入り込んでから、飛行機はその場で待機命令を出されたということだった。

思わず頭を抱える。行きにあれだけ万全の準備をしておいたけれど、帰りのことは何にも考えていなかった。あっ、美容室、予約の時間は? うわあ、なんでこんなにぎりぎりの予定に入れてしまったんだろう。

しばらく経つと飛行機は離陸したが、その後も千歳の除雪は終わらなかったと見えて、着陸前に上空でずいぶんと長いこと、ぐるぐると旋回して待たされた。正味で1時間ちょっとの遅れ。尾身先生に相対する気持ちで美容室を余裕持って予約していれば楽勝だった。しかし……。

美容室に移動すると、なじみの美容師さんは言った。カットかカラーか、今日はどっちかしかできないですね。

しょうがないからカットだけしてもらった。これだから冬の飛行機はいやなんだ。この記事を書いているぼくの頭には白髪がちらほら入り混じっている。冬の飛行機には十分ご注意を。