依頼が来た。「脂肪肝」の肝臓に含まれている、脂肪のサイズを測って欲しい、という。
うわあーと笑ってしまった。なるほどなあ。言いたいことはわかる。
脂肪肝という病気は、肝臓の細胞に脂肪が少しずつたまって、肝臓そのものの機能をわるくしてしまう。この「脂肪がたまる」というのがわかりにくい。コップに水を満たしていくようなイメージとは異なる。
いつものごとく例え話をする。肝臓は人体の中では加工工場として働いている。みなさんも考えたことがありそうなことを言うが、たとえばリンゴを食べたとき、そのリンゴがただ細かく砕かれて体のあちこちに栄養として配分されるわけではない。そのままではリンゴに過ぎない。人間はリンゴではない。リンゴちゃん以外は。なので、リンゴから摂取した成分を、人体にあわせて加工しなければいけない。
そこで登場するのが漁協に隣接した缶詰工場……じゃなかった肝臓である。腸管からやってくる血液をいったん引き受けて、中に含まれている栄養成分をさまざまな形に加工する。肝臓は人体という究極のヤベェロボが持つ最高の臓器のひとつなので、実は加工だけではなく、生産も廃棄もいろいろ担当するのだけれど、本項ではとにかく加工を行うこととする。
で、さらにここを細かくいうと、肝臓は正確には工場1個ではなくて「工業地帯」である。肝臓に含まれている数百万個か数千万個か、知らんけど、とにかく大量の「肝細胞」のひとつひとつが工場なのだ。だから肝臓は工場の寄せ集めである。人体ってのはとかくこのように、機能をもつ細胞が寄り集まってひとつの臓器を作って、効果を上げる。
で、だ。肝臓に詰まっている無数の肝細胞それぞれで、加工の作業が行われるのだが、このとき、加工しきれなかった分の脂肪が「不良在庫」として、工場の中にたまっていくことがあるのである。
工業地帯をドローンで見てくれ。
工場が無数に寄り集まっている。
そこをぐっと拡大してくれ。
敷地内に、「脂肪」を詰めたポリ袋がうずたかく積まれている。
このポリ袋、長い間放置していると、やぶれるのだけれど、脂肪は液体というよりもスライムに近い形状をしているので……
工場の敷地内にある脂肪スライムがたまっていくと、そのうち「合体」してキングなスライムになる。すなわち肝細胞内の脂肪はだんだんサイズがでかくなっていく。
……といっても! あくまで、工場の細胞の「中で」増える。
だからドローンで上から見ると、工場一つ一つの色合いが、だんだん変わって見えるかんじだ。山々の紅葉が点々と色づいて、いつしか全体が紅葉するように……。
現代、脂肪肝というのは、肝臓の細胞のわずか5%が脂肪をもちはじめた状態で「気を付けましょう」と言われる。山の木々の5%が色づいても普通は紅葉とは呼ばない? いや、風流な人は、わずかな色味の変化をみて、「ああ、もう秋が来るなあ」としみじみするだろう。脂肪肝というのはけっこうやばい状態なので、早めに秋を予測するように、早めに捕まえることが大事なのである。
さてと冒頭の質問だ。ある画像検査をやっている人から依頼が来た。
「脂肪肝」の肝臓に含まれている、脂肪のサイズを測って欲しい、という。
うわあー。どこから説明しようかな。
工場の中にはさまざまなスライムがあることを説明するか。脂肪肝といっても木々の色合いは5%から80%以上まで幅広いんだけどどのへんを説明したらいいだろう。
質問の主は「画像検査」に役立てるためにぼくに質問をしているのだから……。
「承知しました。ではまず、何%くらいの脂肪肝の話にしましょう。脂肪(スライム)のサイズが大きいバージョンで測りますか? ちいさい方も測りましょうか。」
こうして、病理を人の役に立てていく。