2020年10月2日金曜日

ある編集者に送ったメール

医書業界について。

「筆者」として多動的で情報量過密なタイプを、

ぼくら(医師側)は少々もてはやしすぎたかな、

ということを最近はよく考えています。

 

医師は何かあればすぐ表、すぐチャート。

とにかく情報がめったくそに多い、図鑑みたいなものを作れば、

それが「業績」になると思っています。

けれども、それを解説する医師の文章力はわりとクソなままですね。


編集者のように国語的な力が高い方々はよくがまんしているなーと思います。

要は読めたもんじゃないんですよ。これじゃ読者は離れます。

 

文脈を共有する人間どうしは、

クソな文章でも内容が濃厚なら勝手に読みとるというか、

表面に置かれている字の向こうの情報を勝手に探るというか、

説明が少なく考察点の多いアニメを見る感じで楽しんでいるので、

それはそれでいいんですけど、

初学者とか、あるいは

自分の専門領域と微妙に違うところにこれから興味を拡張しようと思っている人、

これはたとえば雑誌のメインターゲットだと思うんですけど、

そういう読者に対するにあたって、

筆者のほうがきちんと「育ってない」、と思うわけです。

これはもう切腹しながら書いています。

 

一方そんな中で、編集者というのは、この先、

独立独歩の開業経営者みたいな存在になっていくのかもしれません。

SNSで編集者たちが目立つようになって幾星霜ですが、

けっきょく彼らはすべて「自分で育つしかなく」、

自分で世界と接続していくことを選んでいます。

 

鋭い批評家や鋭い哲学者ほど、われわれ医師はものを考えてないなと思う昨今です。

私たちは使いづらいコマですね。

でも、そこから鉱脈をほりあてることはわりとできちゃうんです、

医学書というのはそういう世界だろうと思っています。

鉱脈に潜む原石は「研磨する」ことで宝石になる。

筆者のほうはまだまだ磨かないといけません。


編集者は全員がゴールドハンターみたいなものです。

そんな人間たちをかんたんに促成栽培できるわけもなく……


筆者は育てるもの。

編集者は勝手に育つもの。

これを逆にすることはできないのかもしれません。

医者の大半は「自分は勝手に育つ」と思っていますけどね。

育った結果がこの程度でしょう?

たぶんもっと育てたほうがいいと思います。


そして、編集者というのは、育てることが難しい。

勝手に育ってもらうしかない。

ゴールドハンターは育成するものじゃないですよ。

思って狙って自分で伸びるものです。


どこかで勝手に育った若い才能と巡り会うまで、

あなたは代わりに全部を引き受けて、

多忙で死ぬしかないんだろうなーと、

けっこうマジで心配しつつ応援しております。

 

市原拝