デスクで使っているパソコンは2台あって、1台は公費購入のデスクトップ。こちらは患者の個人情報が大量に入っている診断用のもので、インターネットには接続されておらず院内ネットワークにしかつながらない。
そしてもう1台はノートPCでこっちはインターネット用、さらには院外での仕事のすべてを叩き込んである。論文、研究会の解説、雑誌や単行本の原稿など。バックアップは3重にとってあって一部はクラウドにも保存してあり、今ギガンテスに踏み潰されてもデータは生き残る(ぼくは死ぬだろう)。
ノートPCに向かっている時間が長い。デスクトップPCよりも長いと思う。別に病院の仕事をないがしろにしているというわけではなくて、診断用のPCというのはつまり「診断を入力するとき+α」にしか使わないからだ。情報検索、考えること、外部からのコンサルテーションに答えることなど、多彩なノートの仕事にデスクトップが追いつくわけがない。というわけで自然とノートPCの細部にこだわることになる。
昔はとにかくPC本体のスペックを高くすることに必死だった。そうしないと仕事にならなかった。でも今の時代はパワーポイントを何個開いても、超音波や内視鏡の動画をいくつ再生しても、動作にほとんど支障がない。正直、家電屋で売っているお仕着せのPCを適当に買ってきても十分に仕事になる。こういうことを言うとセミオーダーのPCを選んだ方が安いですよ的なおせっかいが飛んでくることがあるが、ぼくはPCを選んだり作ったりしている時間を省略してその分長く働いたほうが得だと考えるタイプの人間だ。多少割高でも置いてあるものを買ってすぐ使えるならそのほうがいい。ただしマウスとキーボードだけは別で、この2つは買い足す。けっこう頻繁に買う。デスクワークが長い人はみんなそうだろう。外付けのキーボードを使うことでノートPCのモニタから距離を離して、目や肩、背中への負担を減らす。
今日気づいたのだが、ぼくはこの外付けキーボードを、毎日微妙に違うポジションで使っている。今日はモニタを正面において少し左側に傾いたかんじで入力をしているし、昨日は逆に右側に10度ほど傾けていた。ときどきはひざにのせてしまうこともある。前後の間隔も毎日異なる。
まるで牧場の牛が毎日少しずつずれた場所で草を食むように、ぼくはデスクの上で「昨日のキーボードの痕跡」や「昨日の手垢」をかわすようにポジションを少しずつずらしている。そうやってもくもくもくもく、毎日少しずつ違う手の角度、少しずつ違うクビの角度、椅子の角度、腰の角度で、昨日とほとんど同じようなことを違う角度から眺めてみたらどういうことになるだろうかと、それっぽく傾いて自分の目線を変えているのだと思う。でもやっていることは、褥瘡をふせぐために体位交換をしているのと同じではある。