2022年1月24日月曜日

病理の話(619) 月曜日が特にしんどい

月曜の仕事が多い! 毎週、頭っから激務でたいへんである。

月曜日にできあがる「病理診断用のプレパラート」は、ほかの曜日よりも多いのだ。水曜日や木曜日と比べると2倍以上ある。

昔からずっとそうだったというわけではない。これには、現代の病理学特有の「理由」がある。



いまどきの病理診断(患者から採ってきた検体を顕微鏡などで見て、細胞の性状や遺伝子の異常などをとらえて診断をすること)においては、検体の内部にふくまれるDNAやRNAといった「遺伝子の情報」を、いかに状態良く保存するかが大切だ。


これらは、細胞の骨組みをつくるタンパク質や脂肪とくらべると、もろく、放っておくとすぐに壊れてしまう。遺伝子の情報はいまや診断するための強力な武器だから、なるべく壊さずに検索したい。


そのために必要なのが「ホルマリン固定」と呼ばれる化学処理である。ホルマリンは、細胞内の物質をそのままの形に……まあ言ってみれば剥製(はくせい)みたいにすることができるので、体から採ってきた細胞をなる早でホルマリンにぶち込むことが重要である。このとき、質のいいホルマリン(10%緩衝ホルマリン)でないとだめだ。そしてしっかり24時間は浸かっていることが大事である。なお検体のサイズが大きいときには、ホルマリンが奥までしみこむように「隠し包丁」のような切れ込みを入れたりもする。


そして、ここからがさらに難しい問題なのだが、細胞はホルマリンに長く漬けすぎてもだめである。ひとつの基準として72時間以上、つまり3日以上ホルマリンに漬け込んでしまうと、タンパク質やDNAはともかく、RNAの情報は格段に得るのが難しくなる。


ところが、たとえば金曜日のおひるに患者から採取した組織をホルマリンに漬けて、土日をまたいで、月曜日の昼に「検体処理」をしてしまうと、その時点で72時間に達してしまう。72時間というのは意外とすぐなのだ。

まあ72時間を1秒でも超えたら全部だめというわけではないのだが……。ハッピーマンデーなんかがあるとさらに厳しい。


そこで、現代の病理検査室では、しばしば、土曜日の午前中にも検査技師が出勤してきて、金曜日に採取された検体の処理を行う(もちろんその分は代休を取ります)。こうすることで、ホルマリンに漬かる時間が長すぎず、短すぎずの状態を達成できるのだ。




で、そうなると、困ったことがひとつ起こる。


患者から採ってきた検体をホルマリンに漬けて、翌日に処理、さらにその翌日にプレパラートが完成するというフローを考えると、

 「木曜日に採ってきた検体→金曜に処理→月曜日にプレパラートができる」

まあこれはよいのだが、

 「金曜日に採ってきた検体→土曜に処理→月曜日にプレパラートができる」

ということになってしまう。


そう、休日出勤を挟むことで、月曜日にできあがるプレパラートの枚数が、受付日時でいうところの二日分になってしまうのだ。


その分、火曜日にできあがるプレパラートは少なくなる。だったら、半分くらいは火曜日に回せばいい、と思われるかもしれない。実際、そのようにしている病理検査室もいっぱいある。


……しかし、患者から採取されてきた検体がプレパラートになっているというのに、「見もしないで1日置いておく」というのが、ぼくはどうもできなくて……。結局、月曜日にヒイヒイ言いながら診断を全部終わらせる。


個人の努力でなんとかしてしまう系の業務は、ヒヤリハットを増やすので、あまり無理をしてはいけない。それは本当だ、しかし、どうも医学の仕事というのは、「ちょっとくらいなら無理してでも患者のためになんとかしたい系」のものが多くて、こればかりは、はいそうですかと仕事をクールに振り分けるわけにもいかない。まあなんかうまいこと抜け道がないかなーとか思いながら、今週も月曜日はハードな仕事にいそしんでいる。