2022年11月18日金曜日

月下血管収縮

最近、血圧をはかるたびにどんどん上がっていくので参ったなあと思っている。上はまあそうでもないのだが、下がやばい。血圧の下(拡張期血圧)というのは基本的に、手足などの先にある毛細血管が締まっていることで高くなる……と理解している。だからもともと、冬は高くなりがちではある。しかしそれにしても今までよりはるかに高い。今朝はついに100を超えてしまった(上は130ちょっとだった)。1年前はこうではなかったのだが。


なぜ? と考えたがまあおそらく交感神経が元気だからだろう。闘争もしくは逃走のモードになっているとき、手足のさきっぽや胃腸を栄養するよりも、真っ先に脳に栄養を送る必要があるので、手足の血管は引き締まり、血圧が高くなる。なお脳を優先するはたらきはほかにもあって、たとえば胃腸の動きを止めるというのもある。ぼくも実際、仕事を終えて職場を出て車に乗って走り出して10分くらい経つとお腹がぐううっと鳴る、というのを毎日くり返している。体がずっと緊張状態にある。漫画家のおかざき真里先生が、一番いそがしいときに胃腸がまったく動かなくなった、みたいなことをおっしゃっていたが、医療知識としてではなく、肌感覚としてよくわかる。


糖質、脂質、塩分を控え、お酒も週末くらいにして、時間があればなるべく運動もするようにして、体重は順調に減りはじめた。だから介入としてはうまくいっているほうなのだろう。ただ、血圧の下だけはまだ下がらない。循環器内科にかかって薬も飲んでいるのだけれど、(まだ)体にうまくフィットしていないと見えて、今のところあまり効いている様子はない。血圧は、生活習慣を見直しながら年単位でフィックスしていくべきものであり、今日明日いそいでどうこうしようとも思っていないが、おそらく2か月後に受診すると少し強い薬を出してもらうことになる。


「自分の体を気にしすぎる状態」こそがじつはストレスなのだ、という指摘は普遍的に見かける。そのような、あまり気にしない方がいいよ、というリプライひとつが小さなトゲとなって心に負荷をかける。生きているうちは何を受信してもすべて軽微なストレスになる。だから全部をモニタするのではなくて、なんというか、「その情報はいちおう受信してはいるけど特にリアクションはしないよ」みたいな、休日の雑居ビルの監視カメラのような、ついてはいるし映してもいるけれど誰もチェックしてないくらいの感覚でいいのだろうということは、理論的にも感覚的にもわかっている。

それでもバランスが取りきれないというのがつまりは老いるということの本質なのだ。

部品ひとつひとつがぼろくなるとか、どこかが急にせき止められるとか何かが分泌できなくなるといった「目に見える局所の異常」が出てくることが老いなのではなくて、わかった上で、対処した上で、どうにもフォローしきれないくらいの複雑性の果てに微妙に全体のバランスが乱れる……いや、乱れる方向に少しずつ歩いて行くベクトルこそが老いなのだろう。「座標」ではなく「方向」を指す。



あーあー血圧高いなーと思いながらPCに向き合うとき、ぼやけていた脳が少しクリアになり手先が軽快に動いて文章が生まれる。もちろんこれは交感神経が緊張を高めて脳をブーストした結果なのだ。家で月を見ながらビールを飲んでいるときにキーボードを手渡されても一文字も入力できない。夜にスマホを握っている人はもう少し交感神経を休ませたほうがいいと思う。詩でも口ずさみながらビールを飲むくらいでちょうどいいのだ。しかしそれでも血圧は下がらないのだからままならないものである。