聞いたことあるだろうか。
ほんとにあちこちにある。首とか脇の下など、皮膚のすぐ下にこりっと触れる場合もあるし、もっと体の奥深くにも点在している。
サイズとしては1cmに満たない。5mmを越えるようなものの場合は基本的にどら焼きの皮のような、ひらべったい形状をしていることが多い。それより小さい1mmとか2mmくらいのものは、球形に近いこともある。
さわると少し弾力がある、ホタテの身みたいなやわらかさだ。ぐにぐにとしている。体の中から取りだしてきて、カミソリの刃でふたつに割ると、中は白っぽくて、血はあまり出てこない。少しみずみずしい。
今日はこのリンパ節の話。
リンパ、というのは、ラテン語由来の英語 lymph(リンフ)、もしくはその活用形である lymphatic (リンファティック)がそのままカタカナになったものだと思われる。日本語には対応する単語がない(あるかもしれないけれど、少なくともぼくは知らない)。
明治時代に日本人が lymph node(のラテン語にあたる言葉)を翻訳したとき、
「淋巴腺(りんぱせん)」
とむりやり漢字を当てた。「ぱ」って漢字にできちゃうんだね。パリのぱ。
胃とか腸とか脳みたいに、もともと日本語があった臓器とは違い、リンパ節は西洋医学が入ってくる以前の日本人には認識されていなかったのかもしれない。小さいから、やむをえないところはある。
ところで昔は「リンパ節(せつ)」ではなく、「リンパ腺(せん)」と呼んだ。にくづきに泉と書く腺は、何か液状のものを作り出す構造にあてはめられる漢字である。つまり、リンパ腺というのは「リンパ液を作る臓器」だと勘違いされていた。
リンパ節には、リンパ管(かん)という管がつながっていて、そこからリンパ液という液体が出てくる。
でも、この液体は別に、「リンパ腺」で作られているわけではない。腺という名前は間違いであり、のちに「節」に直された。
リンパ節の役割は、リンパ液を作ることではなくて、リンパ液に含まれる内容物を監視することだ。さらには、リンパ管の中を巡回する警備員(=リンパ球)の駐屯地でもある。
リンパ管が幹線道路だとすると、要所要所に配置されている交番がリンパ節だ。この交番の例えは便利なのでよく使う。
リンパ液の話もしよう。
リンパ液は、本質的には血液といっしょだが、赤血球がふくまれない。さらさらの透明、もしくはにごった白に見える。主に、脂肪成分だとか、リンパ球などの炎症細胞=警備員が含まれている。
そこそこトローリとしている。粘性があるのだ。
人体において、酸素や栄養を全身に運ぶのは、動脈。つまり動脈は上水道にあたる。
これに対し、下水道にあたるものが静脈とリンパ管、2種類ある。
静脈ばかりが有名だがリンパ管も忘れないでほしい。
リンパ液はトローリ。これを静脈に流してしまうと詰まってしまって困る。だから、下水道を成分ごとに2本にわけて、トロトロ成分はリンパ管のほうに優先して流すようにしているのだ。よくできている。
トローリの主成分は老廃物や、消化管で吸収された栄養の一部。
これらが体の中で悪さをしないように、あるいは、体外からへんなものが紛れ込んでもひっかかるように、リンパ節が交番として定期的に監視しているわけだ。
たまに「リンパマッサージ」という言葉を聞く。
リンパ管と静脈という2本の下水道は、上水道(動脈)ほど心臓からの拍出圧を強く受けていないため、たとえば足から心臓という高低差のある帰り道では渋滞してしまうことがある。
渋滞するとむくみの原因となり、症状が出たりするので、マッサージをしてむりやり心臓に返してやろう、というのがリンパマッサージ。
……なんだけど、ぼくは昔からちょっとした疑問がある。リンパ管だけマッサージするってどんだけ達人なんだろうってことだ。
あのもみ方だと、どう見ても、静脈もリンパ管も関係なくマッサージしてるじゃん……。
まあいいか。ふんいきふんいき。リンパ管のほうが静脈に比べてむくみやすいシチュエーションというのも、あるし。
リンパ節の話ももっとできるんだけど、長くなってきたので、またいずれ。