2019年8月14日水曜日

渡り鳥のほうがまだ計画的である

自分のやりたいことをするために休みを取れるくらいには、歳をとった。

偉くなったから休みが取れるようになったわけではない。

人に迷惑をかけない程度に仕事を早く終わらせる技術が身についた。

おかげでちょいちょい休んでいる。



北海道に住んで41年になるが、行ったことのないところが多い。地元なのにあんまり北海道のこと知らないんですねと言われることもある。

だだっぴろい北海道民の言い訳として、大学あたりで北海道に来た人のほうが、北海道に対するあこがれというか貪欲さが強い分、能動的にレンタカーで北海道一周したり鉄道を乗り継いだりしていることが多い。地元民はいつでも行けると思っているせいで、かえって腰が重くなるものだ。

たとえばぼくは根室に行ったことがない。

北見にも泊まったことがない。

礼文も襟裳岬も行ったことがないのだ。けっこうあちこち抜けている。

稚内には仕事で行ったことがあるのだが、北海道最北端の宗谷岬には行ったことがない。この後悔はけっこうでかい。

どうせ稚内まで行ったのならあともう少し足を伸ばせば宗谷岬だったのに、と後悔している。ただ、実は仕事で稚内に訪れてついでに宗谷岬、というには距離があって、気楽に行ける場所ではないことも事実だ。稚内駅から宗谷岬まで、レンタカーを借りて30分超の距離。合間に寄り道できる感じではなかった。

だからいつか行ってみたいと思っていた。



仕事の融通が利くようになったのでそろそろ旅行でも、と思う。しかし、いざ計画をたてようと思うと、何日もかけて北海道一周旅行できるほどの体力が残っていないことに気づく。

北海道は広すぎる。四国一周、九州一周とは比べものにならない。おまけに走っている間はけっこう退屈なのだ。観光スポットとスポットの間の距離が長すぎる。若い自分、仲間や恋人と車を乗り合わせて、キャッキャウフフとのんびり旅行するならまだしも、あるいはバイク好きのように走ること自体が好きな人ならともかく、ぼくは運転しながら寝てしまう自信がある。


稚内は遠い。札幌から電車で5時間かかる。飛行機だと1時間かからないけれど、そこまで金をかけて行きたいか、と言われると微妙だ。はじめてならまだしもなあ。宗谷岬のためだけに数万円かあ。

そんなわけで、最後の一歩が踏み出せず、この年になっても宗谷岬は未到達であった。




ある日、宗谷岬にカモが飛んでくるという話を聞いた。

カモは宗谷岬で「ひとりフリーマーケット」をやるのだという。カモらしい。北海道に他に用があったのかもしれないけれども、宗谷岬で本を売るというのは間違いなく彼自身のアイディアだと思う。そういう人……鳥である。

8月の平日、水曜日、10時から17時までの間に、宗谷岬でお店をひろげて私家版の文庫本を売るという。そんなところで、平日に。

何人客が来るというのか。

おもしろそうだなあと思った。

瞬間的に仕事を調整し、なんなら軽く徹夜未遂もして、数日前にようやく仕事のめどをつけて飛行機をとった。千歳からの往復稚内便、日帰り、しめて○万円である。それなりにはずかしくないスーツが買える値段が飛んでいった。

そんな旅が明日に迫っている。

とりあえず今日、仕事が終わったら、差し入れ用のえび満月を買う。

あとは特に考えていない。そうそう、さっき、レンタカーも借りておいた。

稚内滞在時間は、11時すぎから17時すぎまでの6時間。

空港での待ち時間を加味すると、自由に使える時間は5時間程度か。

最北端のセイコーマートに寄ってこよう。

天気予報をみる。最高気温22度。天候、曇りのち雨。

そういえばぼくは雨男だったな、最近降らないから忘れていた。

あんまり雨が降らなくなった雨男。それ単なる男だ。

単なる男がよくわからない旅に出て雨にやられながらえび満月をカモに放ってくる。

楽しみだ。今日は早く眠ろうと思う。




その旅がどうなったかはきっとここには書かない。