2020年3月27日金曜日

病理の話(428) 病気の分類が時代と共にうつりかわっていくワケ

病理医向けの専門雑誌を見ていると、記事にはいくつかのパターンがあると気づく。

1.すでに知られている病気を診断する「お得テクニック」について
 (診断が難しい病気でも怖くない! こうすれば診断できる!)

2.知名度が低い病気の情報
 (これを知っておかないと見逃す! おぼえておこう!)

3.病気の新しい分類方法
 (今までAと呼んでいた病気の中には、実はA-1というタイプと、A-2というタイプがあって、これらは治療法が違うんです! これからはわけて考えようぜ)

4.新しい病気の概念・2
 (そもそも今まで名前がついていなかった病気があるんです! Bと名付けます!)

ほかにもいっぱいあるけど、これくらいにしておこう。



今あげた例のうち、1と2については、ぼくは受験勉強みたいな読み方をする。「こういう情報があるよ! 知ってた? 知らないと点がとれないよ!」ってことだから、ちゃんと覚えて仕事に活かす。

しかし、医者が読む雑誌というのは、「誰かがすでに知っていた情報」だけを扱うわけではない。

実は3とか4がすごく重要なのである。



たとえば大腸がんという病気がある。この病気のことを全く知らない、という人は少ないと思う。詳しいことはともかくだ。

そして、医療系の知識をよく集めている人だと、同じ大腸がんと言っても、ステージ(病期)によって、治療法はまるで違うし、体に与える悪影響の度合いも違う、ということをご存じだと思う。

ステージ0の大腸がんは大腸カメラで取り除けば、それだけで治癒することが多い。

しかしステージIIaの大腸がんは基本的に手術によって治療されるし、ステージIVの大腸がんでは抗がん剤を含めた多くの治療法を考慮することになる。

ステージによって大腸がんのふるまいが異なるからだ。ふるまいが異なれば対応も変えなければいけない




このような、「病名はざっくりと一緒だけれど、医療者と患者がそれに立ち向かう際に対応を変えていかなければいけないグループ分け」のことを、俗に病気の分類と呼ぶ。

病気の分類は、テナガザルとチンパンジーの顔は違うよねーみたいな、「違うから分ける」というものではない。そこは注意して欲しい。見た目が違っていても対処方法が一緒だったら、わざわざ分ける意味は少し減る。対処だけでなく、たどる経過(その後何日かけてどうなるか)までも一緒ならもはや分類する意義はかなり減る。

対処方法や、未来がどうなるかという予測の結果によって、細かい分類をするかしないかを決めるのだ。




そして……時代がすすむと、この、「対処方法」が増えていくのである。なぜかというと科学が進歩するからだ。ひとことで「抗がん剤」と言っても、15年前に使えた抗がん剤と今とでは、使える薬の種類がまるで違う。今の方が圧倒的に多い。科学の進歩ってすごい。

進歩した科学を存分に発揮するためには、「新しく使えるようになった薬が、効きやすい病気か、効きづらい病気か」を、どんどん分類していくべきなのである。

最近の大腸がんは、ステージだけではなく、たとえば「大腸のなかでも肛門に近いほうにできたがんか、あるいは小腸に近いほうにできたがんか」で分類する。

さらに、「ある遺伝子に異常が起こっているかどうか」でも分類する。

はたまた、「顕微鏡でみたときに、がんが正常ソシキにしみ込んでいく最前線で何が起こっているか」でも分類する。




分類は時間軸が進むにつれて永遠にフクザツになっていく!

だから病理医の読む雑誌の記事は決してなくならないのだ!





で、まあ、人間の知能には限界があるので、分類がフクザツになればなるほど覚えられなくなっていく。だからそこを工夫するための技術というのも次から次へと出てきて……。

「フクザツになりすぎてわけわからなくなった診断手法を、こうしたらもう少しカンタンになるよ!」

というテクニックが生まれ……

それもまた雑誌に載る(笑)。