2021年8月30日月曜日

公園のベンチであなたにガウディ

医療情報発信は勤務医としてのタスクをすごく圧迫するので、20代や30代前半にやるのはちょっときついと思う、そもそも医師になって10年未満だとキャリア的に見ていない風景が多すぎて、情報を発信しようにもネタが足りなくなってしまいがち。


だから情報発信するなら30代半ばくらいからがチャンスだ。職場における自分の立ち位置が明瞭になってきて、医療で自分が得意な領域と、誰かに聞かなければわからない領域と、誰かに任せてしまった方がいい領域とがきちんと分かれてくる、そのタイミングで情報発信をすると「自分発の情報」にこだわらずに「自分が情報交換のハブとなる」ことができるようになる。


40代に入ると多忙は頂点を極める。勤め先の医業は猛烈な量になるし、しょっちゅう自分が一番上になって責任をとるようになる。医療情報もキレ味が増す。飲むようにエビデンスを採取し、無数の人とコミュニケーションする中で出てくる情報は誰にとっても価値が高い。しかし、限界も近づいている。


50代になるとインターネットもリアルも関係なく「調整役」としてやるべきことが多くなってくる。救急の現場がテレビで描かれるときに若くてかっこよい俳優ばかりが使われるが、あれが完全にフィクションとも言い切れないのは、50代を超えた救急医は現場を維持するための「管理職」にまわっていて実際にERに降臨することが減るからだ(減らないならそれはある意味スタッフが足りていないということ)。このとき、30代や40代で趣味的にインターネットを使っていなかった人や、すでに執筆の経験がある人以外は、医療情報発信をする暇はほぼない、というか脳がそちらにフィックスできないし、する必要もない。より若くていきいきしている人を教育してそいつらに情報発信も頼めばよいのである。


60代になると「実績がない限りそもそも言葉を聞いてもらえない」という状態が出てくる。職場で実績があるなら職場の教育役になれるし、学会で実績があるなら学会の講演を頼まれるようになる。でも、自分の所属する、自分の声が届く、自分が実績をあきらかにしているコミュニティの外に声を届けるのはかなり厳しい。若い人と言語のずれが出てきているというのもじわじわと効いてくる。




ということでぼくは30代からへたくそなりに医療情報の拡散を手伝いたいなと思ってやってきましたが、43となりそろそろ限界も近づいていて、少しずつ環境を整える側に回っていくんだろうな、ということを考えています。SNS医療のカタチのメンバーも忙しすぎて厳しいことになっているが、ここでインフラを作るのが「偉くなりつつあるぼくらの仕事」なのだと思う。先輩達がすでに作ってくれたインフラをありがたい足場にしながらその上に、いつまでも大きくなり続ける情報のサグラダファミリアを建てる。建築の側に回る。