2021年12月7日火曜日

病理の話(604) プレゼン下手を救ったZoom学会

各種の医療系学会・研究会がZoom中心になって、便利なことは山ほどある。

札幌に住むぼくはいちいち東京に移動しなくてよいので本当に便利だ。お金も時間も節約できている。

そしてなにより、パワポによるプレゼンが格段に見やすくなった。これまで、多くの発表は「広い学会会場のスクリーンにプロジェクタを通してPC画面を投影するスタイル」で行われてきた。このとき、パワポスライドのデザインが込み入っていたり色の使い方が下手だったりすると、発表の要点がよくわからなくなることは頻繁にあった。

しかしZoom学会だと、発表者が映したパワポスライドを、視聴者はそれぞれ自分のPCで高解像度・適切な色彩で見ることができる。これだととても理解しやすい。

ぶっちゃけ、「これまで学会発表がヘタだと言われていたような医者のプレゼン」がすごく見やすくなった。なぜだろう。



……ゆるやかに切腹をしながらここからの文章を書く。リアル会場の学会で映えなかったプレゼンが、Zoomの共有だと見やすくなる理由は、おそらく、

「多くの発表者が、巨大スクリーンを見上げる人びとのことを想像せず、自分のPC上での見栄えだけを確認してパワポを作っていた」

からだと思う。

長時間かけてPCと向き合ってプレゼンを微調整し続けるとき、どうしても、パソコンのモニタの明るさ、解像度、自分の眼との距離の範囲内で「最適化」をしてしまう。この空白がもったいないから画像をひとつ追加しておこう、みたいなことが起こる。このとき、発表者は、「スクリーンに投影されると見え方がどう変わるか」というのをつい忘れてしまう。

おまけにZoom学会では、発表している自分の顔が常に映し出されるというふしぎな効果もある。自分の顔を意識しながら人前でしゃべるということに、苦手感を表明した人の数はすごく多いと思う(ぼくもいやだった)が、これが続くと、なんというか、「人から見られていること」をいやでも意識するので、プレゼンテーションのスキルのようなものを考えるいいきっかけになる。




さらにさらに。Zoom学会では、しばしば、通信障害によって発表者と会場との接続が切れてしまうことが起こる。「発表7分、質疑応答2分」のように、発表者が与えられる時間が極めて短い一般のセッションで、発表者が3分くらい「落ちて」いると学会の進行がめちゃくちゃになるから、最近の学会はたいてい「発表者は事前にパワポに音声を吹き込んだものを学会事務局に送り、当日はそのパワポと音声を学会事務局が再生する」というやり方をとる。この間、発表者は、自分が作り自分が声を吹き込んだパワポスライドを「Zoom上でじっと眺めて待っている」ことになる。プレゼンが終わって質疑応答のところだけリアルタイムで発言するのだ。

この「自分の発表を自分で聴く時間」というのがエグいくらいにフィードバックにつながる。「なんでここでこんなに平板にしゃべってしまったのだろう」とか、「なんかこのスライド1枚だけやけにビジー(込み入っている)だな……」とかをぐいぐいと気づくことができるのだ。



こうしてZoom学会の普及によって、医者や研究者は……いや、少なくとも「ぼくは」、自分の発表を客観的に見直す機会をたくさん得ることになった。これじゃ伝わらないよなーみたいな部分を細かく直すのに忙しい。これをやらずに40代を通り過ぎていたら50代、60代でだいぶポンコツな発表をしていたかもしれないな、とすら思う。瓢箪から駒とはこのことだ。しかしまあ毎日反省ばかりして疲れる。





あ、それと、今まで「プレゼン上手」とされていた人たちがZoom学会だと急に下手になっている現象もけっこういっぱい観測されている。慣れないとそうなるよね。あたりまえだな。みんながんばろう。