2021年3月3日水曜日

病理の話(510) カミサマホトケサマ炭素サマ

生命をつくるタンパク質、あるいはその設計図であるDNAの中には、それぞれさまざまな素材が含まれているが、けっきょくのところ、どんどん拡大していけば最終的には「原子」にたどりつく。

ま、そりゃそうだ。どんな物質であっても元の元の元の部分には原子があるからね。

生命を構成している原子が何かってことを細かく考えると、カギになっているのは「炭素」だなと気づく。

なぜかって?

や、ほんとに。炭素だらけなんだよ。

たとえば、「アミノ酸」のウィキペディアを見てみるといい。

タンパク質の元となるアミノ酸の構造式には、こんなにもいっぱい、炭素(C)が……




ん? ない? Cなんてどこにもないって?

いやいや冷静に。

構造式において、炭素=「C」はあまりに多いのでいちいち書かないというルールがある。

特に、炭素と炭素が結合している部分では、「直線だけを書いて、Cを省略する」のだ。

つまりは折れ線がひとつ折れ曲がるたびに、そこにはかならず炭素がいるということだ。

炭素だらけだ。




DNAのもととなるヌクレオシドもすごいぞ。すごいっていうか、ひどい。

ほとんど折れ線まみれやないか! ぜひ、ツッコんで欲しい。




なぜこんなに炭素が便利使いされているのか?

それは、炭素が、「腕をいっぱいもつ原子」だからだ。連結部分が豊富なのである。




ちょっと例え話をする。

レゴブロックでお城や車を作ろうとおもうとき、四角い物体を作るのはわりと簡単なのだけれど、球状のものを作るとか、ヘビみたいにくねくねしたものを作るのがけっこう大変だという経験は、誰にもあるだろう(ないかもしれんが)。


レゴで多彩な形を作ろうと思うと、どうしても個数が必要になる。ドット絵の難しさと似ている。レゴは小回りが利かない。数を稼がないと、複雑な形状を作れない。なぜなら、レゴブロックが、デコとボコをひとつずつしか持っていないからだ。つまりは連結のバリエーションがなさすぎる。

せめてレゴブロックの横側にもデコやボコがあったら、もう少し多彩な形状を作りやすくなるだろうに(でも子どもは混乱するから商品としてはポンコツになるだろう)。



ものをつなげて大きな形を作るときには、「連結部分」が多いと自由度が増す。手を繋いで大きく育つための「腕の数」と言ってもいいだろう。



さて、原子もぶっちゃけレゴブロックみたいなものだ。たくさん集めてくればなんでも作れる。

そして、「腕の数」は、原子によってだいぶ違う。



水素は腕が1個しかない。酸素は腕が2個ある。

水分子(H2O)では、酸素の両腕に水素がぶら下がっている。

水分子にさらに何かをくっつけるためには工夫がいるだろう。だって、みんな、腕がふさがっちゃってるからね。



腕1個の水素や、腕2個の酸素をコアに据えていては、多彩な形状を作り上げることは難しい。さまざまな形を作りたいなーと思ったら、腕がなるべく多い原子をコアに置くといい。

そこで最適なのが炭素だ。なんと腕が4本もある!

炭素の周囲にはさまざまな可能性が花開く。

先ほどのアミノ酸も、ヌクレオシドも、いわゆる有機化合物と呼ばれるものは、みんな炭素をコアにもっている。炭素のまわりに多彩な物質がしがみつくことで、いろんな形、いろんな電荷、いろんな特徴を示す。





だから生命は、タンパク質だとかDNAといった、「自分を作り上げたり、情報をやりとりするための物質」のコアに炭素を用いているわけだ。




さて、腕が4つある物質は炭素だけかというと、じつは他にもある。たとえばシリコンがそうだ。SFの世界では、DNAやタンパク質のかわりに、シリコンのコアをもった物質によって作られた地球外生命体が人気だそうである。

では地球上に、シリコンをコアにすえた生命はいるか?

いない。全くいない。

なぜだろう?




……シリコンは化学反応を起こすのが難しいんだろうな。少なくとも地球の環境下で、太陽光や地熱、植物の葉緑体などを使って、シリコンを加工するのに必要なエネルギーを得ることは難しい。でもまあSFならなんとかなるよね。うん。SFだからね。そういう想像をしていくのは楽しいことだなあと思う。